ニューヨーク:ローカルなポップアップ・ショップの魅力と、ブラック・ドールのお話

文=堂本かおる
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ブラック・ドールをめぐるお話

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 ここからは筆者のブラック&ブラウン・ドールのショップについて書いていく。多人種の国アメリカでも、まだそれほどは売られていない黒人のラグ・ドール(布製の人形)を筆者はオンラインで販売し、 ポップアップ・ショップにも月に一度のペースで出店している。

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ニューヨーク:ローカルなポップアップ・ショップの魅力と、ブラック・ドールのお話の画像2 ウェジー 2018.01.11

 毎回、ポップアップ・ショップに出店するたびに、お客さんとの忘れられない会話が生まれる。

 ある女性は人形を見た途端に息を呑み、ひととおり見たあとに「ブラック・ドールを作ってくれてありがとう」と言った。自分が子供の頃、自分と同じ姿の人形を見つけられなかった思い出があるのかもしれない。

 ひとりでふらっと立ち寄った感じの男性はアフロヘアのミニ・ドールを指差し、「これと同じでブラウンの肌のある? 妻にそっくりだから」と聞いた。妻への愛情があふれ出た一言だった。残念ながらブラウンは売れてしまい、カフェオレ色の肌の人形しか残っていなかったのだ。

 ある小学生くらいの女の子は、自分のバックグラウンドであるハイチの国旗のドレスをまとった人形と、黄色いヒマワリ模様のドレスの人形を両手に持ち、迷いに迷った。一緒にいたお母さんとおばあちゃんらしき2人は少女を急かすことはせず、ニコニコしながら見守っていた。女の子は「えーと、えーと……」と時間をかけたのちに、ついに「これ!」とハイチの旗に決めたのだった。

 ピンクのシャツをシャープに着こなした若い父親はテーブルに並ぶ人形をさっと一瞥し、筆者に「この人形の背景は?」と質問を投げ掛けた。「どの子供にも自分と同じ外観の人形が必要だからです」と答えると「なるほど」と頷き、幼稚園児くらいの幼い娘に「この人形、どう思う?」と聞いた。女の子が「欲しい」というと、父親は「どれがいい?」。娘が「これ」とひとつを指差すと、「じゃあ、それ」と即決した。非常に思考と判断の早い人であり、かつ女の子と人形のアイデンティティ問題を理解している人と見受けた。実のところ、多くの父親たちがこの問題に気付いており、中には娘がそれほど欲しがらなくても、茶色い肌の人形を買い与えようとする人すらいる。

 年配の女性たちは楽しい。「ちょっと! この人形、欲しいけどヘアバンドが無いのが寂しいわねぇ」、「あなたの人形、可愛いけれど、いい?次に作るときは“まつ毛”をつけなさいよ」など、いろいろアドヴァイスをくれるのだ。

 そういえば、「こんなポップアップ・ショップやってるの、知らなかったわよ。ちゃんと宣伝しなさいよ」と諭されたこともある。

 ハーレムは、しみじみと良い街なのである。

 ハーレムを含め、どの街も再開発が進めば進むほどメイン・ストリートから古い個人経営の小さな店が消え、全米チェーンばかりが増えていく。そんな時代だからこそ、その地で文化を作り、保ち、盛り上げ、地元の人たちと共有できるローカルなポップアップ・ショップが必要となる。ローカル・ポップアップ・ショップは、まさに時代の要請なのだろう。
(堂本かおる)

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