
「Getty Images」より
3月から4月にかけ、性犯罪の無罪判決についてネット上で議論が紛糾している。「同意でない性交であっても、暴行や脅迫が用いられなければ無罪となってしまうのか!」という怒りの声と、判決全文ではなく一部報道だけで処罰感情を高めてしまうことを懸念するる「司法は慎重性を欠いてはならない」という法曹界の意見が観察できるが、本記事ではそのすれ違いをどのように解消できるのか考えていきたい。
まず、複数の新聞報道をもとに、今年判決の出た4件の事件の概要をまとめる。
1)静岡地裁
当時12歳の長女に暴行を加えるなどしたとして強姦と児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪に問われていた男性被告に無罪判決。検察側は、「長女が約2年間にわたり週3回の頻度で父親に性行為を強要されていた」と主張したが、長女が児童相談所の職員にした証言と公判で述べられた証言に相違があり信ぴょう性に欠ける点と、7人暮らしの狭小住宅で「誰1人気づかなかったというのはあまりに不自然、不合理」とされた。児童ポルノ禁止法違反については罰金10万円(求刑懲役7年)を言い渡している。
2)福岡地裁久留米支部
福岡市の飲食店で開かれたサークルの飲み会で、参加女性が泥酔。店内のソファで眠り込んだ女性と性行為に及んだ会社役員男性が、準強姦罪に問われた事件。判決は、「女性はテキーラなどを数回一気飲みさせられ、嘔吐しても眠り込んでおり、抵抗できない状態だった」と認定したが、女性が目を開けたり何度か声を出したりしたことなどから、「女性が許容している、と被告が誤信してしまうような状況にあった」と判断。「女性が拒否できない状態にあったことは認められるが、被告がそのことを認識していたと認められない」として、被告男性には無罪判決が言い渡された。検察側が控訴している。
3)静岡地裁浜松支部
女性に乱暴し、けがを負わせたとして強制性交致傷の罪に問われたメキシコ国籍の男性に無罪判決。公判では男性の暴行が女性の反抗を著しく困難にする程度だったと認めた一方で、女性側の明らかな抵抗がなかったことで「被告人が、自身の暴行が(女性の)反抗を著しく困難にする程度のものだと認識していたと認めるには合理的な疑いが残り、故意が認められない」として、「犯罪の証明がない」とされた。
4)名古屋地裁岡崎支部
2017年8月と9月に、抵抗できない精神状態にあった当時19歳の長女と性交したとして、準強制性交等罪に問われた男に無罪判決。検察側は「被告が長年にわたる性的虐待などで、被害者(娘)を精神的な支配下に置いていたと言える」、「専門学校の学費を負担させた負い目から心理的に抵抗できない状態にあった」と主張した。しかし判決は、性交について娘の同意はなかったと認定したにもかかわらず、「以前に性交を拒んだ際受けた暴力は、恐怖心を抱くようなものではなく、暴力を恐れ拒めなかったとは認められない」と、過去に暴力を受けたものの性交を回避した経験があるため、抵抗不能な状態だったとは認定できないとした。