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志望校と滑り止め、どの高校に進学すると学力は上がりやすい?

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「Getty Images」より

 新年度がはじまりました。中学・高校、そして大学受験を控える生徒や保護者の皆さんは、徐々に受験勉強やどの学校を志望するかを考え始めていることでしょう。

 大学受験の場合、東大・京大などの国立大学、早稲田・慶應義塾といった難関私立大学、明治・青山学院など「MARCH」と呼ばれる上位私立大学など、様々なレベルの大学を受験することになると思います。中学・高校受験も同様です。今回は「どのレベルの高校に入学するのが望ましいのか」について、いくつかの研究に言及しながら考えていきます。

 高校受験の結果、3つの異なるレベルの学校に合格したとします。A校は高学力層の生徒が集まる学校で、進学した場合、学校内で下位の成績になると予想される学校。B校は中程度の生徒が集まり、学校内で平均に位置する学校。C校は低学力の生徒が多く、上位の成績になる学校です。この場合、いったいどの学校に進学すると、学力に対して最もポジティブな効果が期待されるのでしょうか? 今回は「ピア効果」という考え方について紹介をしたいと思います(なお、推薦入試は考慮せず、学校の特徴などは全く同じとします。答えは後程)。

ピア効果にある6つのタイプと3つの軸

 「ピア効果」とは、同僚や仲間の顔ぶれによって起きる影響のことです。教育経済学の文脈で言うと、ある子供の学力がクラスメイトからどのような影響を受けるか? ということになります。

 実証されているもの、されていないものを含めて、教育経済学の分野では主に6つのタイプのピア効果が考えられています。

1. きらきら星(Shining Star)効果。教室内に優秀な学生が一人いると、その学生に引き上げられて、教室内の学生の学力が向上するというもの
2. 腐ったミカン(Bad Apple)効果。1.の対になるもので、教室内に問題を抱えた学生が一人いると、その学生に引きずられて、その教室内の学生の学力が低下するというもの
3. 不公平な競争効果。教室内で学力上位にいると、さらに学力が向上するというもの
4. 公平な競争効果。3.の対になるもので、教室内で学力下位にいると、学力が向上するというもの
5. 虹(Rainbow)効果。教室内に多様性があると、その教室内の学生の学力が向上するというもの
6. ブティック効果。5.の対になるもので、教室内が均一であると、その教室内の学生の学力が向上するというもの

 以上の6つのタイプをまとめると、ピア効果を考えるときには、主に3つの軸があることが読み取れます。

 一つ目の軸は教室内に優秀な学生や問題を抱える学生がいた時にどうなるかというもの。二つ目の軸は教室内での自分の順位が高い・低いとどうなるか? というもの。そして三つ目の軸は教室内が多様・均一だとどうなるか? というものです。

 

どの学校に進学するといい?

 A校、B校、C校のどの学校に進学するのが良いのか、このピア効果を使って考えてみましょう。

 教育経済学の分野では米国空軍士官学校がとても有名です。この学校で教育経済学の研究が盛んに行われているというわけではなく、この学校を舞台に様々な教育政策実験が展開され、それが権威のある学術誌に掲載される論文となっているのです。ピア効果の測定についても、米国空軍士官学校を舞台に行われた実験の結果が、権威ある学術誌に掲載される論文となっています。

 実験実施前の米国空軍士官学校のデータから、以下の2点が明らかになっていました。

1. 教室内で高学力の学生の割合が増えても、他の高・中学力を持つ学生に対して正のピア効果はないものの、低学力の学生に対しては正のピア効果があった。
2. 教室内で低学力の生徒の割合が増しても、中学力の学生に対して統計的に有意と言えるほどクリアなピア効果があるわけではなく、高学力の学生に対しては影響が無い。

 ここから、6種類のピア効果のうち、教室内で学力下位にいると学力が向上する「公平な競争効果」は存在するものの、反対の「不公平な競争効果」が存在するとは言えなそうだということがわかります。

 最初の高校受験の例でいえば、学校内で上位になるC校に進学してもピア効果からの恩恵がない一方で、学校内で下位になるA校へ進学すると周りの高学力の生徒からのピア効果によって学力向上が見込まれるということになります。ということは低学力の生徒の成績をあげるためには、高学力の生徒と同じクラスに入れればいいということになるはず、なのですが……。

 この論文はさらに、ピア効果が最適化するようにアルゴリズムを組んで、クラス編成を実施する実験を行っています。アルゴリズムの結果、クラスは中学力の学生を集めたクラスと、高学力と低学力の学生を集めたクラスにわかれました。

 まず前者のクラスでは正のピア効果が発生しました。これはブティック効果、つまり「教室内が均一であると、その教室内の学生の学力が向上する」ことが発現したと考えられます。この理由は、トラッキング(日本でいう所の習熟度別学習)という教育経済学の別のトピックの議論を参照するとよく分かるのですが、字数の関係で詳細はまた別の機会に譲ることにします。

 一方、後者のクラスでは、期待されていた「低学力層の生徒の学力が向上し、高学力層の生徒の学力は下がらない」という結果が出ませんでした。高学力層の生徒は負のピア効果を受けなかったのですが、低学力層の生徒の学力はむしろ低下してしまったのです。

 なぜアルゴリズムにより最適化された米国空軍士官学校のクラスでは、高学力層の学生たちがもたらす低学力層の学生たちへの恩恵が現れなかったのでしょうか? アルゴリズムにより最適化されたクラスの低学力層の生徒と、最適化されていない一般的なクラスの低学力層の生徒を比較すると興味深い特徴が現れました。

 米国空軍士官学校では、自発的に学習グループが形成されていました。また、高学年になると多人数の部屋から二人部屋に移ることも出来るようになります。これらに関するネットワーク分析から、アルゴリズムにより最適化されたクラスの低学力の生徒は、そうでないクラスの生徒と比べて学習グループや二人部屋のパートナーに低学力の生徒を選んでいる割合が高かったことが分かりました。つまり、最適化されたクラスでは、低学力の学生が高学力の学生から正のピア効果を受けるのではなく、低学力の学生から負のピア効果を受けてしまっていたのです。

 この実験結果は「公平な競争効果」に留保をつけることになります。教室内に高学力の生徒がいたとしても、低学力の生徒が高学力の生徒と交流を持つことなく低学力の生徒同士でつるんでしまうようになった場合、負のピア効果が発生してしまうのです。こうなってしまうと、教室内で下位の成績になるような学校に進学し、高学力の生徒によるピア効果を期待するよりも、高学力に位置できるような学校へ進学すべきだったということになります。ピア効果の恩恵は受けられませんが、負のピア効果を受けることは避けられます。

 もちろん、低学力の生徒同士でつるむのではなく高学力層の生徒とも交流が持てる場合、教室内で低学力に位置するような学校へ進学することにより正のピア効果の恩恵を受けることができまするのです。低学力に位置する学生が、どのような環境で低学力の学生同士でつるむようになってしまうのかは、残念ながら、まだよく分かっていないのが現状です。学校の学力レベルだけでなく、自分の子供の個性、他の生徒や教員の特徴、学校の教育方針などをよく考えて判断するしかないでしょう。しかし、教育方針やシステムを判断するために、先に触れたトラッキングというトピックが参考になるかもしれません。次回はトラッキングについてのお話をしたいと思います。

まとめ

 米国空軍士官学校での実験は、生徒達の学力を向上させるために学級編成をどのようにすれば良いか? という問題意識から行われたものです。このことが象徴的なように、教育経済学は基本的に、教育の供給側(学校や政府)がより平等で良質な教育を提供するために何ができるか? を考えることが多い学問です。

 その結果を丁寧に紐解いていくと、今回のピア効果のように教育の需要側(家庭)にも意外と参考になることがあったりします。来月も引き続き、みなさんの参考になるような教育経済学の知見をシェアしていきたいと思います。

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