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ストーンウォールで暴れなかった私たちのこと

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トランス男子のフェミな日常/遠藤まめた

 皆さんは警察に捕まったことがあるだろうか。人によってはYESかもしれない。私はNOだ。皆さんは安全に帰れる家がなくて路上で生活をしたり、他に仕事がないという理由でセックスワークをしたことがあるだろうか。やはり人によって答えは違うだろうが、私はNOだ。

 今年は1969年6月にニューヨークでおきた「ストーンウォールの反乱」から50周年、というLGBTコミュニティにとっては特別な年だ。ストーンウォールの反乱とは、それまでLGBTコミュニティへの嫌がらせを続けていた警察に対し、初めてコミュニティがブチ切れて、有色人種のトランス女性やドラァグクイーンたちが暴れまくった出来事だ。アメリカのLGBT運動史はここから始まった、と言われるが、この夜の主人公であった有色人種のトランス女性たちは、その後の運動では「やばいやつ」として基本的に排除対象であった。

 警察に対して最初にものをぶん投げたシルビア・リベラは、幼くして母を自殺で失くし、11歳の頃にはストリートでセックスワークをして生きのびていたラテン系のトランス女性だ。親友のマーシャ・P・ジョンソンとふたりで、同じく路上生活したり警察に捕まったりしているトランスたちを頑張って支えようとするが、白人で他に仕事が選べるゲイやレズビアンの人々は、彼女たちのことなんて見向きしない。人種差別の話? あっちでしてくれ。おまえらみたいなのがいるから差別されるんだよ。それでも話を聞いてもらおうと頑張った結果、彼女はとんでもない嫌われ者になり、親友のマーシャが川で浮いて見つかった後には(警察はろくに調べずに自殺と片付けた)、川岸で昼間からお酒をあおるホームレスになって短い生涯を閉じた。

「路上で生きている有色人種のトランス女性は、みんな40歳ぐらいで死んじゃうよ」

 先日、新宿二丁目の足湯カフェ「どん浴」で、湯に浸かりながらアメリカのアクティビストが言っていた。彼はメジャーさんというストーンウォールで暴れた78歳の黒人トランス女性のお手伝いとして働いている。50年前の暴動の主役たちの中で、ほぼ唯一生き残っているのがメジャーさんだ。この10年ほどアメリカでトランスジェンダーの社会的注目が高まったことに伴いメジャーさんは急に有名人になったが、70歳になるまで、彼女はただの金のないセックスワーカーだった。メジャーさんは今でも刑務所の中にいるトランス女性たちに手紙を書いている。家族に見放され、誰からも必要とされていないと感じるトランス女性たちのことが放っておけないからだ。彼女が今している仕事や、娘たちと慕っている有色人種のトランス女性たちのことを、社会はいまだに無視しつづけている。同性婚の運動のときには裁判所は人々で溢れていたのに、有色人種のトランス女性が惨殺されたヘイトクライムの裁判には人がガラガラなんてことも珍しくない。

 ストーンウォールから50年の今年、「私たちの運動の大先輩」としてメジャーさんを呼ぼうとするLGBT運動のグループが、これまでもこれからも人種差別の問題やトランスたちの困りごとに無関心だったりすることもあるそうだ。でも、50年前に石を投げたことよりも、今彼女が誰に手紙を書いているのか、ということの方がトランスコミュニティにとっては重要である。石を投げた大先輩としてではなく、現在、メジャーさんの運動の仲間になれる人たちはどうしたら増えるんだろうか。

 冒頭に、私は警察に捕まったりホームレスになったりした経験も、セックスワークの経験もないと書いた。シルビア・リベラは11歳で路上に立っていたが、11歳のとき私はサッカーが上手な女子で、自分のところにはたくさんのパスが回ってきた。LGBTコミュニティと呼ばれる空間において、トランスが置き去りにされたり人種差別や様々なちがいが無視されることは日本でもずっと起きていることだ。LGBTコミュニティにおいて忘れ去られることへの抵抗、というものがたりはグッとくる。だけどトランス女性とトランス男性は同じではないし、自分の肌が黄色くてもそれは日本では多数派だ。

 ストーンウォールを「私たちの戦い」と捉えるのは、いさましい気分を味わえて感傷的になれることだ。でも、きっと暴れなくても済んだ側の人間として、歴史をもう一度捉えたいとも考えている。

*ストーンウォール50周年記念 映画「Major(メジャーさん)!」上映会を6月29日に開催します。詳しくはこちら

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