
「Getty Images」より
兵庫県明石市の半数以上の市立中学校で先日、文部科学省が定めた総授業時数を満たしていない状態が続いていることが発覚した。学校行事等に時間を取られたことが、授業時数が少なくなった原因のようだ。体育祭や卒業式など学校行事は準備にやたら時間がかかった記憶があるが、文部科学省は学習指導要領「生きる力」において、学校行事の目標を以下のように定めている。
<学校行事を通して、望ましい人間関係を形成し、集団への所属感や連帯感を深め、公共の精神を養い、協力してよりよい学校生活を築こうとする自主的、実践的な態度を育てる。>
学校行事は集団行動の大切さを知ることができ、クラスメイトと親睦を深める機会を与えてくれるという。一見もっともだが、集団行動は学校だけではなく地域のボランティアやサークル活動でも学べるのではないか。授業時数を犠牲にして学校行事を行い、クラスメイトとの連帯感を深める……本末転倒に思えてしまう。
学校の授業で足りない部分は塾や家庭学習で補えばいいという意見もあろうが、余裕のない家庭も多い中、各家庭任せにしてしまっていいのか。塾に通える子供と通えない子供との間に学力格差を生じさせるリスクもある。子供の将来を考えたら残酷とは言えないだろうか。
さらに、学校行事は子供だけでなく教員にも負担となっている側面がある。
学校行事は教員の負担になっている
明星大学常勤講師の神林寿幸氏による論文「周辺的職務が公立小・中学校教諭の多忙感・負担感に与える影響」によると、小中学校の教員にとって学校行事は、家庭訪問や事務処理等の教育活動と同等、もしくはそれ以上の労働負荷を加え、多忙感や負担感をもたらす要因になるという。
日本労働組合総連合会の調べでは、1週間の平均労働時間で過労死ラインとされる週60時間以上で働いている公立学校の教員は約3割もいることがわかっている。最近では教員は長時間労働が当たり前の“ブラック職種”として広く知れ渡り、教員を目指す若者が減少するほどだ。ではなぜそれほど長時間労働せざるを得ないのか。神林寿幸氏の論文からは、学校行事が教員の長時間労働に大きく影響していることがうかがえる。
学校行事を多くの生徒たちにとっては楽しい思い出となるだろう。ただ、学校において何を優先するか、取捨選択が必要なはずだ。そこで、教育社会学者で名古屋大学准教授の内田良氏に、学校行事の現状や今後のあり方について話を伺った。

内田 良/名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授。博士(教育学)
専門は教育社会学。学校のなかで子どもや教師が出遭うさまざまなリスクについて,調査研究ならびに啓発活動をおこなっている。 著書に『学校ハラスメント』(朝日新書),『ブラック部活動』(東洋館出版社),『教育という病』(光文社新書),『教師のブラック残業』(学陽書房,共編著)など。ヤフーオーサーアワード2015受賞。
――明石市で発覚した総授業時数の問題ですが、学校行事が授業時数を奪っている問題は珍しいことではないのですか?
内田「全国的な話ですよね。この明石市のニュースを見た時には驚かなかったです。どこの学校も学校行事に時間を取られてしまい、国語や数学などの教科の時間を取るのが非常に難しくなっている状況です。
ゆとり教育の見直しで、従来の『しっかり授業を教えましょう』という方針になったものの、一度減らした授業時数をまた増やしたことで、授業時数を確保することが厳しくなったことが一因と考えられます。
各学校は年度末に1年間の授業時数の状況を記した書類を教育委員会に提出しなければいけないんですけど、明石市の学校ではその報告書をあまり改ざんせずに、ある程度“正直”に作っていたから発覚したんだと思います。
ですが、多くの学校は最初から、卒業式の歌の練習を“音楽の時間”というように、『これが学校行事の準備だけど教科も兼ねているんだ』と「読み替え」を済ませたうえで書類を作成しているところがある。だから、授業時数が学校行事に取られている事実を暴くことは、非常に難しいのが現状です」
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