ビジネス

嫌われたカフェイン、急拡大するデカフェ・カフェインレスの巨大市場

【この記事のキーワード】
【画像OK】嫌われたカフェイン、急拡大するデカフェ・カフェインレスの巨大市場の画像1

「Getty Images」より

 いつのまにか世の中に浸透して珍しくなくなっていたものに、デカフェ・カフェインレスがある。スターバックスでは1998年から「ディカフェドリップコーヒー」を扱っていたようだが、見聞きし始めたのは十数年前くらいの印象だ。

 富士経済の調査によると、2010年に「コカ・コーラ ゼロカフェイン」が発売されたあたりから、市場規模が急拡大しはじめたという。

デカフェ・カフェインレスとは?

 まず整理しておきたいのが、デカフェ・カフェインレスといった言葉の意味である。

 デカフェは、カフェインが含まれている飲料や食品からカフェインを除いたものである。EUの基準では、99.9%以上カフェインを除去した場合に限り「デカフェ」と呼べる。日本では特に基準がない。「カフェインレス」はカフェインを90%以上カットした場合に用いる統一のルール(一般社団法人 全国公正取引協議会連合会より)があるが、デカフェ・カフェインレスの呼び方はメーカーの判断によるという。

 キリンビバレッジは、麦茶やハーブティーのように最初からカフェインが含まれていない飲料は「カフェインレス」と呼ぶが、「デカフェ」とは呼ばないとしている。

 この「デカフェ」という言葉はウケがいいらしく、キリンビバレッジが2017年に発売した「生茶 デカフェ」は、2014年発売の「やさしさ生茶 カフェインゼロ」と比較してすぐに2倍の売れ行きを記録したという。3年の間にデカフェやカフェインレスが浸透してきたこともあるだろうが、「緑茶」と「デカフェ」の言葉の取り合わせが新鮮だったという見方もある。

 さて、カフェインを取り除く方法であるが、たとえばネスレ日本では、水溶性であるカフェインの性質を利用し、コーヒー豆を天然水に浸して、カフェインを取り除く。これで97%のカフェインを抜くことができるという。水抽出法は低コストで、安全性が高いとされている。

 一方UCC上島珈琲は、二酸化炭素抽出法を採用している。水抽出法はコーヒーの味や香りのもとであるクロロゲン酸類が半分に減少してしまうとして、二酸化炭素でカフェィンを取り除く方法を選択した。デメリットは高コストにある。

 このように水か二酸化炭素を用いた方法が一般的であるが、UCC上島珈琲は、「Laurina〇→R」というカフェイン含有量の少ない豆の栽培にも取り組んでいる。

2015年頃から増えはじめたカフェインレス市場 

 富士経済によれば、2015年頃から「デカフェ」が言葉として浸透し始めたという。デカフェ・カフェインレスの国内市場は、2015年から2017年にかけて500億円近く増え、3,044億円となった。今後も市場拡大が見込まれている。

 カフェインレスティーの市場規模成長率は、2015年から2016年にかけて59%増、2016年から2017年にかけて13%増というデータもあり、やはり2015年あたりから本格的に市場が成長しているようだ(ユニリーバ調べ)。

 市場の拡大はわかったが、シェアで見るとどうなのだろうか。日本のコーヒー市場におけるデカフェの割合は、2016年の時点でわずか0.5%ほどだった。

 デカフェ・カフェインレス先進国のアメリカでは、約13%を占める。2018年になり、日本のデカフェ・カフェインレスのシェアは全体の0.58%となったが、日本の市場はまだ始まったばかりといえる。

デカフェ・カフェインレスを飲む理由

 デカフェ・カフェインレス製品は、以前は妊婦や授乳中の女性のものというイメージが強かった。今は、夜眠れなくなるからと夕方以降コーヒーや紅茶を控えていた人々の利用も多いようだ。

 意外なところでは、カフェインの利尿作用から摂取を控えていた年配者の需要が出ている。日中トイレに行く回数や、夜中トイレに起きる頻度を増やしたくないから、コーヒーや紅茶を控えていた層である。

 なんとなくカフェインの摂りすぎは良くない気がするからとカフェインレスを選ぶ人もいる。実際、カフェインの摂りすぎはさまざまな健康被害を及ぼす。厚生労働省も「カフェインを過剰に摂取した場合には、中枢神経系の刺激によるめまい、心拍数の増加、興奮、不安、震え、不眠症、下痢、吐き気等の健康被害をもたらすことがあります」と注意を促している。

 カフェイン中毒死と判断された男性がいた事例を受けて、農林水産省は、「エナジードリンクには1本あたりコーヒー約2杯分のカフェインを含むものもある」として、エナジードリンクを飲みすぎないよう注意を呼び掛けている。

 こういった呼びかけも消費者に影響を与えていると考えられる。

次々とデカフェ・カフェインレス市場に参入するメーカー

 コーヒーについては、すでに多くのデカフェ・カフェインレス商品が発売されている。ブラックは、サントリーの「DECAF BLACK カフェインレス」が販売終了するなど芳しくないが、カフェラテは缶入りやペットボトル、カップ商品などさまざまな種類が店頭に並ぶ。

 コーヒーショップをはじめとした飲食店でも普及し、2016年にカフェインレスコーヒーの取り扱いをはじめたミスタードーナッツでは、ユーザーからの要望で2018年にカフェオレ、アイスコーヒー、アイスカフェオレを発売開始。いずれもノーマルなコーヒーに30円程度上乗せしたものが店頭でオーダーできる。

 自宅でデカフェが楽しめるコーヒーメーカーもすでに発売されている。豆を挽くところから全自動のパナソニックのコーヒーメーカーは、あっさりしがちなデカフェ豆にコクを与える「デカフェ豆」コース搭載だ。

 紅茶については、ティーバッグの「リプトン カフェインレスティー」が、カフェイン0.00gの商品だ。デカフェの紅茶は味や香りが薄い、本物とは違う味といわれがちだが、風味の改善をしてカフェイン入りの紅茶に近づけた。

 ペットボトルでは、2018年にリニューアルされた「午後の紅茶 デカフェ ストレートティー」がカフェインゼロである。キリンビバレッジは、水でも二酸化炭素でもない「カフェインクリア製法」(特許製法)を開発した。紅茶抽出液に天然吸着剤を入れ、カフェインを吸着させたあとで取り除く方式だ。

 同じ製法を使ってつくったのが前述の「キリン 生茶デカフェ」で、「ペットボトル緑茶で唯一の“カフェインゼロ商品”」である。2019年4月現在でも、混ぜ物のない緑茶だけのペットボトルはほかではないようだ。

 デカフェ・カフェインレスの流れは飲み物だけではない。マツモトキヨシのプライベートブランドから、カフェインを含まないチョコレート風味菓子「チョコレート風キャロブミルク」が発売された。キャロブは、地中海地方原産のマメ科の植物であり、これまでも自然食品の店などではチョコレート風味の菓子の材料に使われていたものであるが、大量生産のものとしては珍しい。

伸び続ける巨大なコーヒー市場

 今後、デカフェ・カフェインレス市場はどこが狙い目だろうか。一番考えられるのは、夜にデカフェ・カフェインレスのコーヒーを飲む習慣を消費者につけさせることである。

 コーヒー市場は巨大だ。日本における2017年のコーヒー(レギュラーコーヒーとインスタントコーヒー)の消費量は464,686トンで、緑茶の81,328トン、紅茶の15,529トンに比べて格段に大きい。1杯入れるのにコーヒーは10gの豆、緑茶は2gの茶葉、紅茶は2~3gの茶葉を使うことから、コーヒーは緑茶や紅茶の約5倍使うことを差し引いても、コーヒーが一番飲まれているとわかる。

 さらに国内のコーヒーの消費が増えているという事実もある。2011年に420,932トンだったのが2018年には470,213トンとなった。特にここ3年くらいの伸びは目覚ましい。

 2016年の全日本コーヒー協会調査によると、日本人は1週間に平均で11.09杯コーヒーを飲むという。そのうち職場や学校では2.60杯、家庭で6.89杯となっている。おそらく、家庭でのコーヒーは、朝食時が多いだろう。

 もともとコーヒーが好きで、日中は何杯か飲むけれど夜は飲むことを避けて水を飲んでいた人が、今後は夜にデカフェのコーヒーを飲むようになれば、それだけで1週間に7杯分の消費が増える。まったく新しい飲み物を飲むように習慣づけるよりも、よほどすんなり取り入れられることだろう。

 ネスレは、2017年、2018年と期間限定で営業してきた睡眠カフェを今年から常設で営業開始した。睡眠前にカフェインレスのコーヒーを、睡眠後にカフェイン入りのコーヒーを提供する。これによって、睡眠前のカフェインレスコーヒーという習慣を根づかせる狙いだ。

 紅茶についても、ユニリーバの調査により、消費者が睡眠の質を考えて夜に紅茶をあまり飲んでいないことが確認されている。これも紅茶好きな人がカフェインレスの紅茶を夜の飲み物に取り入れれば、簡単に消費が増える。

 通常商品とデカフェ・カフェインレス商品の両方を扱うメーカー側は、商品同士の食い合いが生じない分、使い分けを提案していけば確実に消費が増える。そのため、カフェインに関する熱心な啓蒙活動がそこここで見られる。

 デカフェ・カフェインレス商品が増え、認知度がさらに高まれば、夜にお茶を飲んだせいで眠りの質が良くない、といった層にも届くかもしれない。そして、デカフェ・カフェインレス商品が割高な状況も、競合が増えれば変わっていくかもしれない。

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。