
「赤狩り THE RED RAT IN HOLLYWOOD」1巻(小学館)
4月11日、内部告発サイト「ウィキリークス」の創設者ジュリアン・アサンジ容疑者が在英エクアドル大使館で英警察当局に逮捕された。
それを受け、ある男性が「アサンジ氏の批判者は喜んでいるかもしれないが、報道の自由にとっては暗黒の瞬間だ」という見解を示し、注目を集めた。ロシアに亡命中の元米中央情報局(CIA)職員エドワード・スノーデン容疑者だ。
内部告発者が犯罪者になる恐ろしさ
スノーデン氏といえば、米国家安全保障局(NSA)の極秘監視システムを暴露したことで知られる。映画『スノーデン』(オリバー・ストーン監督)で知る人も多いだろう。2013年6月、同氏からNSAの内部文書を提供された英紙ガーディアンが4日間にわたり、個人のプライバシーを脅かす情報収集の実態を暴いた。米電話会社の通話記録を毎日数百万件集めていたこと、「PRISM(プリズム)」というプログラムを使い、マイクロソフト、グーグル、フェイスブックなど米インターネット会社のサーバーから同じく毎日数百万件の通信記録を入手していたことなどが明らかになったのだ。
それまでも専門家の間では、米政府が大量のメールや電話を秘密裏に収集、保存している可能性は議論されていた。しかし、スノーデン氏によって動かぬ証拠を突き付けられた情報収集の規模は、想像を超えるものだった。一般市民に与えた衝撃はそれ以上に大きい。
けれども歴史を少しさかのぼってみれば、米政府による不正な監視が今に始まったものではないことがわかる。
ハリウッドを襲った赤狩り旋風
山本おさむの傑作マンガ『赤狩り』(既刊1〜4巻、小学館)を読んでみよう。事実をもとにしたフィクションの手法で、ソ連との冷戦時代に米国に吹き荒れた赤狩りの嵐と、それに翻弄される人々のドラマを克明に描いている。赤狩りとは、共産主義者やその同調者を政府が逮捕したり追放したりする行為を指す。
物語の舞台は1940〜50年代の米国。メインストーリーとなるのは、映画業界をターゲットとした赤狩りである。オードリー・ヘプバーン主演で知られる名作映画『ローマの休日』は、赤狩りでハリウッドを追放された脚本家ドルトン・トランボが書いた作品だ。 『赤狩り』では、追放された彼が名前を出せないため友人の名義を借りて書いたといった興味深いエピソードとともに、映画人たちに対する抑圧の実態が描かれる。
当時、米政府で赤狩りの中心となった組織は、J・エドガー・フーバー長官率いる連邦捜査局(FBI)である。
FBIは狙いをつけた人物を盗聴、盗撮、尾行、監視などによって徹底的に調べ上げた。他人の家に入り込んで証拠写真を撮ったり、書類を盗み出したりする違法な捜査をしていたが、見つかって逃げなければならないときは無記名の封筒に盗んだ書類を入れ、ポストに投げ込んだ。
それはFBI本部に送られることになっていたから、郵便当局ともつながっていたとみられる。反国家的としてリストアップした人物の私信を開封し、その内容を記録してファイルしたりもした。
米下院に設けられた非米活動委員会(HUAC)は、こうして集められたFBIの情報をもとに、トランボらハリウッド各撮影所で働く19人を召喚する。そのうち数名が現役の共産党員で、他の多くも元党員や労働組合運動の活動家だった。召喚された19人は首都ワシントンのホテルに投宿するが、そのホテルの電話も盗聴されていた。