『赤狩り』〜テロより怖い監視国家の脅威、その源流は冷戦時代にあった

【この記事のキーワード】

冷戦時代から変わらない不正な捜査を正当化する手口

 スノーデン氏によって暴露されたNSAの大規模な監視システムに比べれば、その源流といえる赤狩り時代のFBIの手法は、いささか牧歌的に見えないでもない。けれども、それは技術水準の違いにすぎない。標的とした人々の基本的人権を無視し、手段を選ばずプライバシーを侵している点で変わりはない。不正な捜査を正当化する口実が、共産主義の脅威からテロの脅威に変わっただけである。

 これに対し「冷戦当時、共産主義の脅威は単なる口実ではなく、現実のものだった」と反論があるかもしれない。たしかに、ソ連のスパイは存在した。それはハリウッドではなく、米政府の内部だった。

 『赤狩り』でも触れているが、1995年に公開された「ヴェノナ文書」により、少なくとも300名を超える米国人や永住権者がソ連のスパイとして活動し、しかもその中には何人もの政府高官が含まれていたことが明らかになった。

 赤狩りで悪名をとどろかせたジョセフ・マッカーシー米上院議員による、政権中枢にまでソ連のスパイが浸透しているという荒唐無稽と思われた主張は、正しかったのである。

 なお『赤狩り』の詳細な作者注でも強調されているとおり、のちに赤狩りを「マッカーシズム」と呼ぶことから、彼がハリウッドの赤狩りも行ったと誤解されがちだが、マッカーシーは上院議員であり、下院で行われたハリウッドの赤狩りとは無関係である。

 しかし、ここで注意が必要なのは、作者の山本氏が指摘するように、ソ連スパイの実態が明らかになったからといって、「赤狩りは正しかった」とする論調に陥らないことだろう。

 スパイ活動を法律に基づいて取り締まるのは当然にしても、そのスパイが共産主義者だったからといって、政府が共産主義者全体を犯罪者のように扱うのは明らかに行きすぎである。

 非米活動委員会の聴聞会で罪の証拠を挙げられず、やむなく証言拒否で裁こうとした委員長に対し、トランボは「これはアメリカの強制収容所の始まりだ!! 典型的な共産主義者のやり口だ」と叫ぶ。共産主義の脅威から自由な米国社会を守るという大義名分で始めた赤狩りが、米国自身をまるでソ連そっくりな自由のない社会に変容させるという皮肉な現象を、見事に表現している。

1 2 3

「『赤狩り』〜テロより怖い監視国家の脅威、その源流は冷戦時代にあった」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。