5月病は「適応障害」、放置すると危険!!  企業側が取り組むべきメンタルヘルスケアは?

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「Getty Images」より

 新しい生活や職場環境になじめないあまり強いストレスを抱え込み、心身のコンディションを崩してしまう「5月病」。これは病名ではなく現象面をとらえて概念化されたマスコミ用語で、1960年代に使われはじめた。昨今は研修期間の長期化で6月に体調を壊す新入社員が増えてきたことから、「6月病」も問題視されている。

 なぜ、5月病・6月病なる症状が新入生・新卒社員を襲うのか?

 高校から大学へ、あるいは大学から社会人へとライフステージが変わるとき、それまでの人間関係や周囲から勝ち取ってきた評価はリセットされる。新しく与えられた環境で、何もかも一から築き上げていかなければならない。大学時代に武器としていた高偏差値もコミュ力も、会社で通用するとは限らない。そもそも、学生の評価基準と社会人の評価基準は異なるケースが多い。

 「こんなはずじゃなかった」。就職前の自信と希望が大きければ大きいほど、壁にぶつかったときのショックも大きい。そして、「こんな調子でこの先やっていけるのか?」と不安が大きくなり、入社まもなくして休職届や退職届を出す事態に発展してしまうのである。

 会社を辞める程度で済むならまだいいほうかもしれない。暗いトンネルから抜け出せず、「うつ」に発展すれば、人生そのものが暗転の危機にさらされる。最悪の事態を生まないためにも、企業・労働者ともにストレスチェックとメンタルケアが求められる。

5月・6月病は医学的には「適応障害」

 5月病・6月病ともに医学的には「適応障害」に分類される。世界保健機構の診断ガイドライン(ICD-10)によると、適応障害とは、「ストレス因により引き起こされる情緒面や行動面の症状で、社会的機能が著しく障害されている状態。発症は通常生活の変化やストレス性の出来事が生じて1カ月以内であり、ストレスが終結してから6カ月以上症状が持続することはない」と定義される。

 つまり、生活の変化や心に重くのしかかるような出来事によって不安や心配が強くなり、まともな生活が送れなくなる症状。なおかつ急性で長期持続することがない症状をいう。

 よくうつ病と混同されるケースが多いが、適応障害は原因がストレスによるものとはっきりしていて、その元となるストレッサーを排除すれば回復するといわれる。たとえば会社では強い不安を感じて何かしらの体調不良を訴えても、仕事を終え帰宅すると回復へと向かう。対してうつ病は、ストレスやホルモンバランスの乱れ、性格、発達障害などさまざまな要因が複雑に絡み合い、原因の特定が難しい。適応障害は急性疾患だが、うつ病は何をしても常に憂うつな気分が持続する慢性疾患という違いもある。

 ただし、適応障害と診断されても、5年後には40%以上の人がうつ病などの診断名に変更されている現状がある。6月病を発症してストレスが慢性化すれば、うつを併発する可能性が高くなるのだ。

 厚生労働省によると、適応障害の治療方法としてまず挙げられるのが、「ストレス因の除去」。職場環境にストレス因があるとすれば、部署移動や配属転換、転職などの方法で解決できる見込みは高い。ただ、そう簡単にできるものなら最初から悩む必要もないだろう。環境調整が難しい場合は、心療内科医によるカウンセリングや薬物療法といったアプローチが試みられる。ただし薬物療法といっても対症療法にすぎず、根本的に治るわけではないから、カウンセリングを通してストレス環境への適応力を高めるトレーニングが重視される。

企業側が取り組むべきメンタルヘルスケアは?

 厚生労働省の「平成29年労働安全衛生調査」によると、現在の仕事や職場に強いストレスを感じる事柄があると答えた労働者の割合は58.3%。新卒者が含まれる20~29歳では58.5%がストレスを抱えていると回答している。ストレスの内容は、「仕事の質・量」「仕事の失敗、責任の発生」など、仕事に関する悩みが多数を占める。

 企業側のメンタルヘルス対策への意識はどの程度だろうか。同調査によると、メンタルヘルス対策に取り組んでいると答えた事業所の割合は、全体の58.4%。具体的な取組内容として最も多いのが、「ストレスチェック・64.3%」、次いで「メンタルヘルス対策に関する労働者への研修・情報提供・40.6%」、「メンタルヘルス対策に関する事業所内での相談体制の整備・39.4%」と続く。

 入社して間もない新入社員はまだ会社でのポジションを築けず、悩みがあっても孤立しがちでますますストレスを抱え込むことが多い。新入社員を孤立させず、身近な社員が積極的に声をかけて励ましたり、アドバイスをしたりする環境の整備が大切だ。

 そこで注目されるのが、若手社員をサポートするための施策「メンター制度」だ。比較的年の近い先輩社員(メンター)が後輩社員(メンティ)の指導や悩み相談にあたる制度で、一般的には若者の離職対策や女性社員の労働環境改善のために導入されている。

 メンターには、新入社員と年の近い先輩社員が選ばれる。彼らも数年前は同じ悩みを抱えていただけに、同じ目線に立って話を聞くことができる。世代も近く、聞き役としては上司よりもふさわしいと言われる。

 先輩たちも新人の頃は同じような失敗を経験したこと、そこから何かを学んで今の成長につながったこと。それらを伝えることで、新入社員も「悩んでいるのは自分だけではない」という気持ちを持てるようになる。適応障害を防ぐためには、とにかくひとりで悩んだままにさせないことが重要だ。周囲からの声がけは、悩んでいる新人にとって非常に大きな意味を持つ。

 メンター制度をメンタルヘルス対策として有効化するには、運用ルールをしっかり定めること、事前研修を行うことなどいくつか注意点がある。また、メンターとメンティの間でトラブルが起きた場合は人事部などが速やかにクッション役に回るなど、リスク管理も忘れてはならない。これらの準備と対策が整ってはじめて機能する制度といえる。

大切なストレスチェックと規則正しい生活習慣

 新入社員として心がけたいのは、日ごろからストレスの度合いを把握しておくこと。どれくらいストレスが潜在的にたまっているのか知るために役立てたいのが、ストレステストである。

 一般社団法人日本産業カウンセラー協会が運営する「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト『こころの耳』」では、数分程度でできるストレス診断サービスを提供している。いくつかの質問に答え、その結果をもとにストレス状況や隠れた症状を診断するもので、対策や注意点などもアドバイスしてくれる。

 『こころの耳』は、職場に関する悩みを抱えた際、どんな場所で相談を受けられるのか、内容別に案内する情報提供機関の役割も持つ。仕事がつらくなってどうしてもやめたくなったりした場合も相談に乗ってくれるから、悩んでいる人はぜひ活用してほしい。

 ストレス対策としては、食生活の改善や十分な睡眠、適度な運動、あるいは趣味を楽しんだり親友に会ったりするなどのリフレッシュが有効だ。残念ながら特効薬など存在しないから、生活習慣のなかで少しずつ緩和していくしかない。ストレスのたまり具合を自覚するのは難しいため、こまめなチェックと日常的な充電を心がけよう。

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