遺体を鍋で煮込んだ八王子カリスマホスト殺害事件

文=高橋ユキ
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【平成の事件12】無罪確定男の、ホテル女店主殺害未遂事件

<2016年傍聴@大阪地裁>

 2014年11月5日午前8時40分ごろ、大阪市北区兎我野(とがの)町のホテルの一室で、女性(38=当時)が顔や首などを男に刃物で刺され重傷を負った。警察官が駆け付けたが男は血のついた果物ナイフをなかなか離そうとしなかった。手からはたき落として、殺人未遂の疑いで現行犯逮捕した。

 無職の中勝美(66=逮捕時)は、2008年に京都府舞鶴市で高校1年の女子生徒が殺害された事件で起訴されたが、大阪高裁で逆転無罪となり、2014年7月に無罪判決が確定した男だ。別の事件で実刑判決を受けて事件直前まで大阪刑務所に服役していた。

 大阪市梅田地区。新御堂筋と扇町通の交差点から南東に進むと、ラーメン屋や商店、古いマンションやホテルなどが立ち並ぶ一角がある。『山田レジャーランド(仮称)』とゴシック体で描かれた大きな看板がかかるビルは、ここ兎我野町の目印。スポーツクラブのような名称だが、中はスナック、人妻キャバクラ、ホテヘル店がひしめく風俗ビルだ。2014年11月5日の早朝、事件はこのビル2階のホテル『X』で起きた。

 この緊迫した逮捕劇が繰り広げられた『山田レジャーランド』から10分ほど南に歩くと、淀川の手前に大きな建物が見えてくる。ここ大阪地裁で中の公判は開かれた。罪名は建造物侵入、強制わいせつ致傷、殺人未遂、銃刀法違反。強制わいせつ致傷で起訴されていたのは、殺害前にわいせつ目的があったと検察側が判断したためだ。

 起訴状によれば「当日ホテル内において刃体10センチメートルの果物ナイフをAさんの首に当て『服を脱げ、脱がないと殺すぞ』と脅し、そのナイフをAさんの首元に突き刺し、上半身をめくりあげ、両乳房を揉み、頸部、胸部など多数回ナイフで突き刺し全治1カ月の外傷性出血性ショック等を負わせたがAさんは逃げ出し、他店従業員の通報で居合わせた警察に逮捕された」とある。

 最終的に判決でもこの流れが事実だと認定されているのだが、中は「来るなとは言われていない。Aさんは……そのことで口論となり…Aがホテル内のナイフを持ち出した……私は取り上げてもみ合いになり……決してAさんを殺そうと思っていない」と、口論になりもみ合う中で刺さったのであり、殺意がなく、正当防衛だと主張。わいせつ目的も否認した。

 公判ではAさんも証人出廷し、中と出会った驚くべきいきさつを明かした。

 中は無罪確定の前年、2013年8月にコンビニでアダルト雑誌を万引きした窃盗罪で有罪判決を受け服役しており、2014年9月30日、大阪刑務所を出所した。その直後、ふたりは出会った。その日AさんはJR堺市駅のホームで中に『仕事をしないか』とスカウトしたのである。知人から『出所者は仕事を探していることが多いから、掃除の仕事でも続けてくれるのでは』と知恵を授けられたのだと明かしていた。しかしAさんは中被告を『使えない』と早々に見限った。

「ウチのホテルは部屋番号がアルファベットなのに、被告人はABCDが分からない。お客さんを案内できない。それに被告人はホテルで仕事してる間、お客さんと何度ももみ合いのケンカをした。なので『休んでください』と言いました」

 Aさんは滅多刺しにされており、包丁が頬を貫通し舌に刺さった傷で多量に出血し「あと10分搬送が遅れていれば助からなかった」と医師は調書で語っていた。

 中には懲役16年の判決が言い渡され、双方控訴せず確定。服役中の2016年7月11日の朝、堺市の大阪医療刑務所で病死した。

 次回は2017〜2019年の傍聴を振り返る。

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