こうした比較広告の戦略には、欧米ならではの文化的背景が潜んでいると重盛氏は続ける。
「アメリカでは、フットボールやバスケットボールなどで自陣営の応援に熱が入りすぎ、相手陣営をこき下ろすこともままあるんです。そうした“ホーム&アウェイの精神”をジョークとしているのは、“まあ、自分たちも同じようなことしているしね”という相互理解の意識があるからだと思います。ひとつの企業が比較広告を打ち出せば、そのライバル企業が“ならウチだってここは勝っているよ!”と反撃に出る。お互いをけなしながらも根底では尊敬し合う流れがあるんです。これは消費者目線では、各企業の優位性を相対的に見ることができるというメリットもあるのです」(重盛氏)
そうした流れで印象的なのが、マクドナルドが2016年に打ち出したCMにまつわる騒動だろう。とあるフランスの田舎町の街道を行くカップルの車。お腹をすかせた彼らの目に入ってきたのは、右折左折と懇切丁寧に書き綴られ、見上げる先端に「258km」と記された巨大なバーガーキングの看板と、その横でシンプルに「5km」と書かれたマクドナルドの看板。要するに、バーガーキングは店舗数が少ないけどマクドナルドならすぐ近くにあるよ、というメッセージが込められているのだ。
だが、イジられたバーガーキング側はすぐさま「アンサーCM」を公開。看板を通り過ぎたCMのカップルがマクドナルドに立ち寄り、格安のコーヒーだけを購入した後、旅のお供のコーヒーをすすりながら時間をかけてでも味で勝るバーガーキングまで行く、という内容だった。あたかもラッパー同士のラップバトルのようであるが、各ブランドの特徴を活かした比較広告合戦の好例だろう。
過激広告の裏には“ファンへのサービス精神”がある
こうした比較広告が飛び交う業界の中でも、バーガーキングがとりわけ異質な過激さを進めている理由を重盛氏はこう分析している。
「バーガーキングは徹底して“マス”ではなく“コア”を優先しているんです。低価格で勝負しているマクドナルドなどに対し、バーガーキングは味や質の良さを全面に打ち出しています。多くの人たち、つまり“マス”な人たちは、安ければなんでもいい。しかし、味を重視する一部の人たち、つまり“コア”な人たちは多少値が張ってもバーガーキングを選ぶ。そうしたコアなファン層を広告戦略の中心に据えているんです。
そこに先述の“ホーム&アウェイの精神”が作用して、“俺たちが愛するバーガーキングがNo.1”という一体感が生まれます。ですから、企業側としてもコアなファンへのサービス精神を発揮させ、ライバル企業を巻込んだ過激な宣伝を打ち出していく、というわけです。バーガーキングには、自分たちのファンこそがブランドの屋台骨という意識が強くあるのだと思います」(重盛氏)
事実、そうしたファンと企業の熱い絆を証明するように、2017年のクリスマスにバーガーキングはとあるCMを公開した。それはFacebookにて、1年間で637回もコメントをしてくれた熱狂的な男性ファンを、ある特別店舗に招待するという内容だ。店舗には男性の名前がデカデカと掲げられ、彼専用のトレイやテーブルなどが完備されており、男性専用の年間フリーパスポートまで贈呈。日頃のファンへの感謝を、持ち前の思い切りの良さとサービス精神で表現した例と言えるだろう。