ひとり親家庭が「働いても低収入」な事情。離婚で損なわれた「自己肯定感」を取り戻すところから

【この記事のキーワード】

まずは自尊心や自己肯定感の回復を

 職探しで営業職を敬遠し、“事務職で9時5時”を理想とするようなシングルマザーの姿勢を、消極的と捉える人もいるかもしれない。しかし、当事者は離婚など経て自己肯定感が著しく削がれていることも多いのだ。死別や離婚を経てメンタルがボロボロになった状態で、いきなり「やる気を出して働こう!」と気持ちを切り替えようにも、心も体もついていけない。

 だから、しんぐるまざあず・ふぉーらむのシングルマザーキャリア支援プログラム「未来への扉」の第1回目は、「コミュニケーション講座」だ。休憩を挟んで3時間。講師は、受講者であるシングルマザーたちに「人って誰と一番多く対話していると思いますか?」と問いかけるそうだ。

「人間が最も対話している相手は、自分自身です。ある人が1日に何回自分と対話しているかを数えてみたら、10万回くらいになったそうです。『今日は遅くまで起きれなかった、大丈夫かな』とか、そういう自問自答で10万回。それほど多い自分との対話で、『私って全然ダメ』『運が悪い』とネガティブなことをずっと思っていると、力が湧いてきません。だからレッスンでは、“自分自身にどういう言葉がけをするかで力の湧き方が全然違うよね”ということを、皆さんで実際に体験してもらうのです」

 『もうダメ』『頭が痛い』『具合が悪い』『私ダメ』『めんどくさい』といったネガティブワードをかけた後、腕に力をかけてみると、「はぁっ……」と肩が下がってしまう。しかし今度は、講師が『素敵』『綺麗』『かわいい』『大好き』のようなポジティブワードをかけると、本当に腕に力が湧いてくる。これが面白いのだという。

 次は自分で自分自身にポジティブワードを言ってみる。さらに『離婚してすごくダメ』ではなく『でもその中でチャンスを与えられて、今勉強できているんだよね』『私たちついているね』と声をかけあう。

「自分はこれから頑張れるんだという気持ちになっていただけて、みなさん明るい顔で帰っていかれます。仲間意識も芽生え、ポジティブオーラも出てきます」

 しんぐるまざあず・ふぉーらむではそれとは別に「エンパワメントセミナー」も開催している。これは、短所を長所に置き換えるワークだ。受講者は他己紹介をしてから短所をいくつかピックアップする。その後ペアワークやグループワークを行い、“短所と言っているものが実は長所に繋がっている”ことを仲間同士で考えてもらう。たとえば『すごく大雑把』という短所は『非常に決断力がある』という長所でもあるではないか、といった具合だ。

 同じ立場にいる者同士で声をかけ合うわけだが、自分が声をかける側になった時は相手にどう言おうか一生懸命に考える。コミュニケーションスキルの向上にもつながる。

「そうして声かけしていく中で、みなさんすごく明るくなりますね。背中に紙を貼り、その人のよいところを一言ずつ書いていきます。ほかの参加者全員が書いてくれた背中の紙を最後に取って、自分で読むのですが、それは真実の言葉です。それはみなさんの宝物になります。

シングルになる過程で人間関係が切れてしまい、あるいは批判され、孤立している方が多いのです。だから同じ立場の仲間同士の言葉かけが新たな人間としての成長になります」

 ポジティブな意識を持てたからこそ、“スキルを身につけていこう”“就職しよう”と意欲が湧いてくる。 さらに、ポジティブになることによって「自分自身の受援力、支援を受ける力も上がっていく」と赤石さんは言う。

 自己肯定感や自信が削られた結果、自分に適した相談先や支援を探すためのエネルギーさえ湧いてこない当事者もいる。

「窓口でひどいことを言われちゃうんじゃないか、と怖くて動けないこともあります。そのような心理状況に置かれた当事者が、相談する力や支援を探す力を身に付けるには、まずは自分自身を大切にする、大切にされていい存在なんだと思えることが大事です。

 自分には“相談をして支援を受ける権利があるのだ”“尊重されるべき人間なのだ”と思えるか、どうか。就労支援と同時にそちらも支援する必要があると、私たちは考えています。

私たちの支援を受けて『何かお返ししないと』とおっしゃるシングルマザーもいます。しかし私たちは支援団体であり、寄付も受けていますので、『あなたは当然、支援を受ける権利があります』と伝えるようにしています」

 必然的に、支援者側には高いスキルが求められる。しんぐるまざあず・ふぉーらむの相談員は、社会福祉士、キャリアコンサルタントなどの国家資格を始め、資格と数年の相談経験を持っている。また、支援者向けの講座として「ひとり親サポーター養成研修」も定期的に開催している。「ひとり親サポーター養成研修」には、自治体の職員、母子福祉自立支援センターの相談員、困窮者支援に携わる団体の相談員などが全国から集まるという。

「みなさんとても熱いです。昨年も60人以上の方が全国からいらっしゃいましたが、グループワークで『こうしたらいいんじゃないか』と語り合い、高め合い、繋がりを作っています。それがひとり親支援に役立っていく」

 ひとり親世帯の相談・支援は多岐に渡る。法律手続き、社会資源、教育支援、DV被害者支援、養育費の問題、ライフプラン、メンタルヘルスの問題も知っておかなければならない。「ひとり親サポーター養成研修」では、それらの学びに加え、安心・安全な言葉がけなど相談対応についても学ぶ。

「地方から熱心に何度も通われている職員さんや所長さんもいらっしゃいます。ひとつの窓口や支援機関で、50人、100人と多くのひとり親が相談を受けられるわけですから、ひとりの職員さんの対応が変わるのは成果を生みます」

___

 ひとり親の多くは仕事を持ち、働いている。だが、自分と子どもが問題なく暮らせるだけの収入を得られず貧困状態に置かれている親子が半数だ。就労支援は存在し、相談先も設置されている。母子家庭等就業・自立支援センター事業や母子・父子福祉センターなど、ひとり親に特化した相談先もある。支援制度や相談機関もある。しかし、それらの周知や支援の質の向上のため、まだ課題は多い。

 平成28年度全国ひとり親世帯等調査では、ひとり親の公的制度の利用状況等も調査している。母子世帯で見ると、公共職業安定所(ハローワーク)を利用した経験があるのは68.5%、市町村福祉関係窓口は49.9%。一方、母子家庭等就業・自立支援センター事業は10.9%、母子・父子福祉センターは5.7%、母子・父子自立支援員に至っては4.0%に留まる。

 あなたには支援を受ける権利がある。どんな人にもその権利はある、と、伝えていきたい。

1 2 3

「ひとり親家庭が「働いても低収入」な事情。離婚で損なわれた「自己肯定感」を取り戻すところから」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。