このように、引きこもりになるきっかけには、多くのケースで仕事や職場が関係している。調査結果によれば、引きこもりになったきっかけは、多い順に「退職」36.2%、「病気」21.3%、「人間関係がうまくいかなかった」21.3%、「職場になじめなかった」19.1%、「就活の失敗」6.4%となっている。
その結果、現在の生計を自分自身でなんとかやりくりしている人が29.8%であるのに対して、父母に依存している人が34.1%(父21.3%、母12.8%)と上回り、配偶者に依存している人が17.0%となっている。
つまり、3割以上が親頼りなのだ。しかし、その親自体が年金暮らしであったり、高齢のため介護が必要であったりする。そして多くの場合は先に亡くなるだろう。
「8050問題」とは何か
このように中高年の引きこもりが社会問題として浮かび上がってきたのだが、現在のところ、自治体の引きこもり支援はその多くが30代までを対象としている。東京都など一部の自治体は年齢制限を設けないようにしているが、これはまだ少数派だ。
そのため、40代以降の引きこもりの当事者は、特に親が要介護状態になったり亡くなったりすれば、生活が崩壊してしまう危険がある。
特に10年後に50代となった彼らが80代の親に依存して家計が行き詰まるであろう問題は「8050(ハチマルゴーマル)問題」と呼ばれている。
実はこの問題は、介護従事者の間では以前から指摘されていたという。訪問介護で要介護者の家に行くと、50代の引きこもりの息子が一緒に暮らしているケースが珍しくなかったためらしい。
中高年が引きこもりになったきっかけの多くが仕事に関することだとわかったが、「8050問題」は、社会復帰が困難な中高年がいることを示しているともいえる。
いったん引きこもりになった中高年が再就職しようとしても、企業側としては長期間働いていなかったり、メンタルに問題を抱えているらしい中高年をあえて採用することはないだろう。
その結果、社会に必要とされていないと感じた中高年はますます引きこもり、近所や親戚からも「いい歳して独身で親と暮らしているなんて……」などと言われて(あるいは言われていると思い込んで)、さらに社会復帰が困難な状態に追い詰められていく。そして、親がよほどの資産家でもない限り貧困化していくのだ。
近年、40~60代で無職の人が、亡くなった親の遺体を放置していたなどとして逮捕される事件が相次いだ。親の死亡を届け出てしまうと、親の年金が支給されなくなることを恐れた息子や娘たちが起こしている事件だ。
彼らは引きこもりであるがゆえに、社会から切り離されており、誰にも相談することができなかった。また、自治体が主催する相談会の多くも、39歳までという対象年齢の制限を設けていることが多い。