高齢者ドライバーに必要なのは講習ではなく試験ではないか

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70歳以上の運転免許保有者は1千万人以上

 警視庁が発表した『平成30年運転免許統計』によれば、高齢者の免許保有人数は70歳以上が1129万6951人、75歳以上が563万8309人、そして80歳以上が226万5107人もいる。これだけいる高齢者ドライバーに対して、国も何もしていないわけではない。

 70歳から74歳のドライバーには「高齢者講習」を、75歳以上にはこれに併せて「認知機能検査」を免許更新時に義務づけている。特に後者の検査の結果によっては、免許を取り消す場合がある。しかし、これほど高齢者ドライバーの事故が注目されているなかで、「高齢者講習」の効果は疑わしい。なぜ、合否が出る「試験」にしないのか。

 認知機能検査にしても問題だ。なぜなら、事故を起こす原因は認知症とは限らないからだ。重視すべきは、安全に運転するモラルと反射神経、身体能力、空間認識能力などの衰えをチェックし、「合否」の判定を行うことではないだろうか。

 現在の高齢者講習でも実技の時間があるのだが、これは試験ではない。そのため、縁石に乗り上げようが、S字カーブで脱輪しようが、赤信号を見落とそうが免許は更新できてしまうのだ。

 たとえば、先に取り上げた池袋で事故を起こしたドライバーは、確かに認知機能検査は問題なかったようだが、実は足が悪かったという。

縁石に乗り上げてパニックになるドライバー

 池袋の事故は、87歳のドライバーが縁石に乗り上げたところから暴走が始まっていることがわかった。どうやら縁石に乗り上げたことでパニックになり、ブレーキと間違えてアクセルを踏み込んでしまったという。

 その後、時速100キロ近くで暴走したことから、アクセルを思い切り踏み込んでいたことがわかる。(日本経済新聞:2019/4/24 『時速100キロ近くで暴走か 池袋10人死傷』)

 実際、高齢者ドライバーの免許更新時に行う実技講習では、多くの人が方向転換やクランク(桝形道路)で縁石に乗り上げてしまうようだ。これは、空間認識機能が衰えていることを示す。もちろん、免許を取得する際の実技試験でこれをやったら免許は取れない。

 ところが高齢者の実技講習は合否を出さない仕組みなので、免許を更新できてしまうのだ。

高齢者の指導現場で起きていること

 神奈川県の自動車教習所で高齢者の実技講習を行っているある指導員は、高齢者の数が多く、教習所側の指導員が不足していると話す。予約は4カ待ちになっており、そうこうするうちに更新に間に合わず免許が失効してしまう人もいるのだという。(Hint-Pot:2019/04/22『高齢者ドライバーの実態 赤信号「これ行っちゃっていい?」 教習所指導員が語る』

 これは、教習所の指導員がそのまま高齢者の指導員になれないことも影響しているようだ。というのも、高齢者の指導員になるためには、一般的な教習指導資格に加えて、認知機能検査員、高齢者講習指導員の資格を取得せねばならないためだ。

 しかも、認知機能検査は認知症を診断するものではない。医師が行うわけでもないし、その検査内容も当日の日付や時刻を確認したり、カードの描かれたイラストを暗記させて質問したりするといった簡単なものである。

 そして最も注意すべきは、認知機能検査は指導をするために行うのであって、その結果によって免許が取り上げられることはないということだ。前述の指導員は、この高齢者実技講習が、もし免許取得時の技能検定であれば、わずか1割程度しか合格しないと感じているという。(同上)

 また、都内の教習所で高齢者に接しているある指導員によれば、高齢者は急ブレーキを苦手としているという。高齢者は反射神経も足腰の筋力も衰えており、アクセルとブレーキも踏み間違えやすい。しかも1994年以前に免許を取得した人は教習所で急ブレーキを踏むことを学んでいないという。そのため、高齢者には急ブレーキを悪いことと思い込んでいる傾向があるのだと指摘されている。(WEDGE Infinity:2019/5/7『運転のプロが読み解く、高齢者の暴走事故の真相』

 この指導員も、高齢者の実技講習を指導していて恐怖を感じることがあるという。たとえば10分間に二度も逆走していながら、本人は自覚がない。また、一時停止して自分で「右よし、左よし」と声に出して左右を確認しておきながら、接近車がいるにもかかわらず飛び出してしまうなどだ。しかし、彼には免許を取り上げる資格はない。(同上)

 アクセルとブレーキの踏み間違いは若い人でもよくあることだ。おそらく身に覚えがある人も多いだろう。ところが、若い人は踏み間違えてもすぐに気づいて踏み直せるのだ。

 警察庁科学警察研究所で交通事故の鑑定・分析を担当している山梨大学大学院の伊藤安海教授は、高齢者の問題はアクセルとブレーキを踏み間違えることより、踏み間違えたときに踏み直せないことだと指摘する。まず、踏み間違えたことを認識できていなかったり、間違ったと気づいても踏み直す行動に移せなかったりするのだという。(HUFFINGTON POST:2019/4/26『「運転上手でも、5年後を見すえて家族で話し合いを」 高齢ドライバー問題のためにできること』

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