アメリカ生まれの二世:カーディ・B
先日の Met Gala で経血をイメージした深紅のドレスをまとい、またもや大きな話題を振りまいた人気絶頂のフィメール・ラッパーが、カーディ・Bだ。
カーディ・Bの本名はベルカリース・マーレニス・アルマンザー。父親はカリブ海のドミニカ共和国、母親はニッキー・ミナージと同じトリニダード・トバゴの出身だ。ニューヨーク市ブロンクスで生まれ、マンハッタンにあるドミニカ系の街、ワシントンハイツで父方の祖母によって育てられている。
ドミニカ共和国とトリニダード・トバゴは共にカリブ海にあるが、ドミニカはスペイン語、トリニダードは英語が公用語だ。アメリカ生まれのカーディは当然、英語を話すが、スペイン語も流暢だ。育ったワシントンハイツは非常に大きなドミニカ系コミュニティで、まるでスペイン語が公用語であるかの錯覚に陥るほど、スペイン語が使われている。こうした地区では公立学校にもバイリンガル・クラスに加え、卒業まで二言語を教える多重言語クラスもある。カーディはセレブとなった今も強烈な訛りのある英語を話す。
高校卒業後のカーディはストリッパーを続けながらSNSによって人気を獲得し、やがてヒップホップのリアリティ番組への出演を果たす。キャラクターが立ち、ユーモア溢れる話術が達者なことからますます人気が広がり、2015年、ついにラッパーとしてデビュー。今や飛ぶ鳥をも落とす勢いのスーパースターとなっている。
長期展望が要される移民政策
スターの資質を見込まれてスカウトされ、いわゆる”高技能移民”としてアメリカに移住したリアーナ。貧しさゆえに両親が”外国人就労者”となり、父親は社会から脱落したものの、その子供であることから”チェーン・イミグレーション(親族呼び寄せ)”政策により移民できたニッキー・ミナージ。同様に”外国人就労者”である両親からアメリカで生まれた二世のカーディ・B。
もしも30年ほど前の米国が「メリット・ベース・イミグレーション」を推し進め、「チェーン・イミグレーション」を抑制していたならば、リアーナはともかく、ニッキー・ミナージとカーディ・Bはこの世に出現しなかったことになる。
移民としてのあり方は三者三様だが、いずれもアメリカを代表するトップ・レベルのセレブとなっている。ただし3人とも祖国の文化を隠すことはせず、それどころかルーツとして音楽にも反映させており、異を唱える世論はない。
これほどのスーパースターたちを移民として語ると違和感があるかもしれない。しかし、彼女たちの職業がたまたまミュージシャンであっただけで、エンジニア、公務員、サーヴィス業など何に置き換えても同じことが言えるはずだ。合法移民であれば入国経緯はどうあれ、成功する者もいれば脱落する者もいる。そもそもほとんどの移民は大成功も大失敗もせず、一般市民として、ごく普通に暮らしていく。
日米ともに移民を無制限に受け入れるのは当然ながら不可能であり、何かしらの政策は必須だ。だが、二国の首脳が考える “メリット” は、本当にメリットなのか。必要なのは近視眼的に現状をみることではなく、世代を超えた長期展望に基づく移民政策なのである。
(堂本かおる)
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