リアーナは “高技能移民”? 安倍もトランプも移民政策の“メリット”を誤解している

文=堂本かおる

社会 2019.05.16 19:05

リアーナ公式twitterアカウントより

 日本では4月1日より新たな外国人就労システムが始まった。「特定技能」と呼ばれる在留資格が新たに作られ、「技能」のレベルによって「1号」と「2号」に分けられている。

 1号は農業、漁業、製造業、宿泊業など14種の「単純作業」に適用される。在留期間は通算5年、家族の帯同は不可。
 2号は現場監督など「熟練職」に適用される。在留資格は更新可能で、更新回数に制限はない。家族の帯同も可能。
 1号、2号ともに日本語能力も求められる。

 日本政府はこのシステムを「外国人就労」と呼ぶが、実質的には「移民政策」だ。

アメリカの “親族呼び寄せ”

 アメリカは移民国家だけに就労ビザの種類も多岐にわたる。移民はまず自身の就労業務に見合った就労ビザを取得し、就労期間中に永住権を申請するケースが多い。永住権は元の国籍のまま米国に永住できる資格だ。

 だが、永住権取得者の総数のうち、就労による取得者は意外に少ない。

 2016年 米国永住権取得者総数 1,183,505人
 1) 親族呼び寄せ(親族が身元引受。結婚を含む):68%
 2) 難民:13%
 3) 就労ベース(雇用主が身元引受):12%
 4) 永住権抽選当選者:4%
 5) その他:3%
 *データは米国国土安全保障省による

 移民が永住権もしくは市民権を取得し、規定以上の年収を得ている場合、親族に永住権を取得させるための「スポンサー(身元引受人)」になれる。自身の子供、両親、兄弟姉妹などに加え、外国人配偶者もこの枠に入る。

 トランプは親族ベースによる移民政策を「チェーン・イミグレーション」と呼んで嫌っている。意訳すると「芋づる式移民」といったニュアンスだ。代わりに米国にメリットを与える移民を迎える「メリット・ベース・イミグレーション」を訴えている。

 メリットとは職能、職能の土台となる教育レベル、英語能力などを指す。つまり、すでにアメリカに家族がいるというだけの理由で職能も英語能力も不確かな移民を入れたくないという理論だ(トランプ自身も妻メラニアのスポンサーとなり、後にメラニアがスポンサーとなってその両親に永住権を取得させていることには当然、触れない)。

 だが、家族ベースの移民政策にメリットを見出す専門家もいる。移民が異国の地で精神的、物理的に安定して暮らせ、かつ親族ビジネスなら資本が少なくても起こしやすく、経済の活性化につながる。事実、アメリカを代表する移民都市ニューヨークは移民経営の小規模店舗であふれている。

 ニューヨーク市は人口の実に3分の1以上が外国生まれの移民だ。親族ベースの移民もいれば、いわゆる高技能移民もいる。また、どちらのタイプもニューヨークで家族を持ち、子を産んでいることから、二世も大量に暮らしている。

 日本の一般的な市町村とは都市の成り立ちが大きく異なるニューヨークの事象を持って日本の移民政策を語るには無理もある。だが、ニューヨークで生まれ、もしくは育った移民や二世には日本でもよく知られるセレブもいる。以下、異なるパターンの移民セレブ3人を紹介する。

 “高技能移民”:リアーナ

 先日、シンガーのリアーナと、ルイ・ヴィトンを傘下に持つLVMH(Moët Hennessy – Louis Vuitton)の提携が発表された。リアーナのファッション・ブランド “Fenty” が、今後はパリを拠点とするLVMHグループからリリースされる。リアーナのコスメ・ブランド “Fenty Beauty” も人気を博しており、リアーナは今や押しも押されもせぬ、世界トップ・レベルのファッション・アイコンなのである。

 リアーナの本名はロビン・リアーナ・フェンティ。カリブ海のバルバドスで生まれている。島ではレゲエを聴いて育ち、歌手を目指すようになったと言う。2005年、ニューヨークを本拠とするレコード・レーベル “Def Jam” に見初められ、17歳でアメリカに移住。以後、あっという間に世界的なスーパースターとなった。

 リアーナはカリブ海ルーツがよく分かる曲を何度もリリースしている。デビュー・シングル『Pon de Replay』は曲調がダンスホール風なだけでなく、タイトルもカリブ海特有の英語だ。意訳すると、DJに向かっての「その曲をもう一度かけて、ヴォリュームを上げて」になる。バルバドスの公用語は英語だがベイジャンと呼ばれる島の方言があり、リアーナの英語には今もかすかな訛りがある。

 女優としても活躍するリアーナは昨年、『オーシャンズ8』に出演した。演じた天才ハッカー “エイト・ボール” は、カリブ海系ニューヨーカーという設定だった。

家族帯同移民:ニッキー・ミナージ

 フィメール・ラッパーの大御所、ニッキー・ミナージもカリブ海のトリニダード・トバゴからの移民だ。本名はオニカ・ターニャ・マラジ。父親は “ドォグラ”と呼ばれる民族グループだ。トリニダードにはアフリカからの黒人奴隷の子孫とインドからの移民が多く、その二者のミックスを指す。ニッキーの顔立ちがどことなくアジア的なのもそのためだと思われる。

 ニッキーがごく幼い時期に両親がまずニューヨークに移住し、ニッキーは祖母に預けられる。その後、5歳で渡米し、以後はニューヨーク市クイーンズ区で家族と共に育っている。だが、父親は渡米後に麻薬中毒者となり、一家を支えたのは母親だった。

 MTVは2013年にニッキーの生い立ちも含めたドキュメンタリー番組『My Time Now』を制作している。その中でニッキーは、5歳で渡米した時、ちょうど冬で寒く、生まれて初めて雪を見たと語っている。また、ニューヨークはおとぎの国で、お城のような家に住むと想像していたのに、着いてみると家具も満足にない小さなアパートだったとも語っている。

 高校はマンハッタンにある、パフォーミング・アーツに特化した公立のラガーディア高校に進んでいる。卒業後はウェイトレスなどをしながら音楽活動を続け、2010年のファースト・アルバム『ピンク・フライデー』を全米1位、3xプラチナムの大ヒットとし、現在に至っている。

 ニッキーも『Pound The Alarm』という曲では故郷トリニダードでヴィデオの撮影をおこなっている。トリニダードの風物詩であるカーニヴァルの衣装をまとい、祖国の国旗を何度も登場させている。

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