
病いと子供と私
子育て真っ盛りの働く親世代が、自らの体の不調に直面することは、決してレアケースではない。家族、子ども、命などをテーマに様々な媒体にインタビュー記事を掲載しているライター・玉居子泰子が、子育て中の親が抱える病気との向き合い方を考えていく。
第三回目は、20代後半のバイタリティあふれる男性が、第一子の誕生後に「躁鬱病(双極性障害)」に襲われて休職、長い闘病生活をどのように送ってきたかをご夫婦に聞いた。
心は大丈夫なはずなのに体が動かない。働き盛りの父親を突如襲った病い
2009年3月。週明けの夫の様子がいつもと違うと気づいたのは妻の美佳さん(仮名)だった。「1年ほど前に娘が生まれて、夫はすごく張り切っていたんです。『父親になったから頑張らないと』って、会社帰りに夜間の大学院に通って、毎日深夜まで課題をこなして、休みの日にはマラソンまでしていましたからね。本当に元気な人だなあと思っていたら、休日のマラソン大会で雨に降られて、風邪を引いたんです。そこから数日たっても全然良くならない。すごくだるそうで、食欲もなくて、会社に行けなくなった。なんだか変だ、と思ったんですよね」
東京近郊に暮らす森健二さん(仮名)さんは、当時28歳。高校卒業後すぐに就職した会社につとめて10年。自ら進んで事業企画や改善計画を提案するなど積極的に仕事に励んでいた。
「残業がないホワイト企業だったのもあって、朝八時から夕方まで仕事をしても、時間を持て余す感じで。何か物足りないっていう気持ちが強かったんです。大学院に行き始めて確かに忙しかったし睡眠は足りていなかったけれど、全部自分が好きでやっていたことだったから、辛いとかそういう気持ちは、全くなかったんですけどね」(健二さん)
もともと向上心が高く、”暇な時間”が好きじゃなかった、という健二が、気がつけば、朝起き上がる力が湧いてこなかくなっていた。なんとか会社に向かっても電車を前に吐き気が込み上げ、足は動かなかった。
「心は平気なはずなのに、体がどうしても動かない。例えるなら伸ばし続けたゴムが切れる感じでした」(健二さん)