今年3月に卒業した大学生の就職率が97.6%の高水準だったと、厚生労働省と文部科学省が公表した。売り手市場が続いているが、複数の内定を獲得しても就職先はひとつに絞らなければならない。そこで内定辞退が必要になるが、5月15日の日経産業新聞「就活探偵団」記事において、「内定辞退は直接企業に出向き、まず感謝を述べるべき」と推奨したことが物議を醸している。
記事では、学習院大学が4月に学生向けに開いた「内定獲得後のマナーセミナー」でキャリアセンターの淡野健担当事務長が述べた、内定辞退のマナーを紹介している。
それによれば、「実際に本命から内定をもらったとき」には、先に内定していた企業の人事担当者に連絡を取り、面会を申し出るべきだという。淡野事務長は<メールの送りっぱなしや電話で完結してはダメ。必ずその企業に足を運ぶことが重要>と述べ、担当者との面会では<内定をくれたことへの感謝を、いの一番に伝え>てから辞退したい旨を説明すべし、としている。
しかしこの「わざわざ出向いて、内定辞退する」マナーには、ネット上で異論が噴出している。たしかに人事担当者にとっても面倒でしかなく、時間の無駄かもしれない。不採用通知はメール1本で済まされるのになぜ? という疑問もある。
企業側の立場に立てば、内定辞退するならなるべく早く申告してほしいのは当然だろう。であれば、電話でアポを取ってから面会などという手順を踏まず、メールか電話で「内定を辞退したい」と申告されたほうがよほど早い。
また、内定辞退のつもりで訪問したにもかかわらず、慰留されて混乱する可能性も出てくる。売り手市場の今、企業側も一度内定を出した学生を手放したくはないだろう。内定辞退率の高さはここ数年、特に中小企業にとって頭の痛い問題となっている。しかし無理に慰留した結果ミスマッチが起きれば、元も子もない。
記事では、内定者SNSなどの交流によって囲い込まれ、辞退しにくい心境に陥る学生のケースも記されている。学生たちはよほど真面目で思慮深く、義理や人情を大事にしているのだろうか。
内定を辞退したければ、「内定辞退 メール」などと検索すればいくらでも例文が出てくる。電話で伝える場合の例文まで、丁寧に教えてくれる。「内定承諾書」や親の「同意書」も法的拘束力はない。自己中心的で無礼な断り方さえしなければよく、過剰に感謝するような“礼儀”を尽くす必要はないのではないか。