ビザ無し移民の黒人少女+韓国系二世の恋物語『The Sun is Also a Star』

文=堂本かおる
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 ヤング・アダルト小説のベストセラー『The Sun is Also a Star』(「太陽も星のひとつ」の意)が映画化された。デビュー作『Everything, Everything わたしと世界のあいだに』が非常に高い評価を得、アマンダ・ステンバーグ主演で映画化されたニコラ・ユーンの第二作だ。

注:本稿は映画/小説のレビューではなく、そのストーリーを元にアメリカおよびニューヨークの移民社会を描くものにつき、いわゆるネタバレとなっています。

 『The Sun is Also a Star』はニューヨークを舞台とした高校生のロマンスだ。ただし月並みなティーン恋愛物語ではない。主人公のナターシャはジャマイカ系、チャーリーは韓国系。しかもナターシャはビザ無し移民(不法移民)であり、「明日、母国へ送還される」身なのである。

 「アメリカこそ私の故郷」と考えるナターシャは両親、小学生の弟を含めた一家揃っての送還をなんとか防ごうと、高校生ながらできる限りのことをする。ブルックリン区のカリビアン地区にある家を早朝に出て、移民局があるマンハッタンのダウンタウンに向かう。移民局職員への必死の掛け合いが実り、午後に移民法専門の弁護士と会うことになる。

 「もしかすると、なんとかなるかもしれない!」……安堵と希望を抱くナターシャ。その瞬間、チャイナタウンの路上でチャーリーと出会う。

 チャーリーは韓国からの移民である両親のもと、ニューヨークで生まれ、クイーンズ区のアジア系コミュニティで育った二世だ。米国は国籍について出生地法を採っているため、アメリカ生まれのチャーリーはアメリカ人だ。アジア系の移民によくあるケースで、両親は必死に働いて子供の教育を熱心におこない、文字通り「末は博士か大臣か」と育てる。チャーリーの両親の場合は「医者」であった。チャーリーは将来、医者になるべく、優れた大学の推薦面接に向かうところだった。

ビザ無し移民に寛容なニューヨーク

 映画では描かれていないが、原作の小説ではナターシャの父親は俳優を目指してジャマイカからニューヨークに移り住んでいる。のちに母親がまだ小学生だったナターシャと、赤ん坊の弟を連れて父親に合流したのだった。

 父親には演技の才能があったが、アメリカでの成功を阻むものがあった。パトワと呼ばれるジャマイカ英語の訛りが、どうしても抜けなかったのだ。パトワはジャマイカの旧宗主国であるイギリスの英語と西アフリカから連行された奴隷の言葉がミックスしてできた言語で、独自の単語、フレーズ、そして発音を持つ。アメリカで育ったナターシャにはパトワの訛りはない。

 ナターシャの一家は誰も米国滞在資格を持たないが、両親はなんとか仕事を見つけて働くことができた。アメリカでは義務教育は基本的人権の一つであり、滞在資格を持たない子供も学校へ通える。入学の際に提出する書類に子供本人と保護者の国籍や滞在資格を記入する欄はあえて設けられていない。

 さらにニューヨーク市はビザ無し移民に寛容な法をもつ「聖域都市」のひとつだ。ビザ無し移民が罪を犯しても、軽罪の場合は一般市民と同様の罰金刑か短期の留置場収容で済み、警察が移民局に通報することはしない。ところがナターシャの父親はうっかり飲酒運転をしてしまう。これはケースによっては重罪扱いとなるため、移民局への通報がなされたのだった。だが、他には犯罪歴もないことから社会に害悪を与える存在ではないとみなされた父親と一家は逮捕や移民収容所を免れ、母国への自主的な帰国を申し渡された。その期日が「明日」なのだった。

 ちなみにニューヨーク同様の聖域都市は全米にいくつもあり、トランプは各市長を「聖域都市を止めなければ連邦からの各種予算や助成金などを出さない」と脅したが、ニューヨーク市長のビル・デブラジオ(現在、2020大統領選に立候補中)は、これを無視した。

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