ビザ無し移民の黒人少女+韓国系二世の恋物語『The Sun is Also a Star』

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黒人街で商売をする韓国系移民

 チャーリーの両親は、マンハッタンの黒人街ハーレムで黒人女性のためのヘア・ケア商店を経営している。黒人女性はウィッグ、ヘア・エクステンション、独自のヘア・コンディショナーやスタイリング剤を多用するため、ハーレムのような黒人街には同様の店舗がいくつもある。そのほとんどが韓国系の経営だ。

 韓国がまだ豊かではなかった時代、多くの移民がアメリカにやってきた。彼らは英語が不得手、銀行もローンを貸してくれないという不利な条件の元、自分たちにできるビジネスを模索した。その結果、アジア産のカツラ販売が一つの選択肢となった。当初は細々とした商売だったが時間をかけて大きく展開し続けた結果、今では黒人のヘア・ケア店といえばほぼ韓国系と言うほどに成長したのだった。

 同じことが他の国からの移民グループにも起きた。ハーレムにある洋服屋はユダヤ系、貴金属店は中近東系、ネイルサロンはアジア系の経営である理由だ。

 なお、映画のロケで使われたのはハーレムのメインストリート125丁目に実際にある韓国系経営のヘア・ケア店だ。今では多くの店が店員には地元民を雇っているが、劇中の店はチャーリーの父と兄が店番を務めている。

 チャーリーの父と兄は黒人客を相手に商売をしながら、黒人への偏見を持っている。店を訪れたナターシャに対し、兄は万引きを疑うジョークを放った。父は息子のチャーリーの友人であるナターシャに親切に振る舞うつもりで、黒人用の縮毛矯正剤をプレゼントしようとした。大きくカールした髪はナターシャの黒人としてのアイデンティティとプライドであるとはつゆ知らず。

 父にとって黒人街での商売は移民としてサバイバルのための仕方ない選択であり、黒人との交流にはまるで関心がない。兄に至っては、チャーリーのように優秀ではないが故に黒人街の店でくすぶっていなければならないことに常に苛立ち、精神的に爆発寸前なのだった。

「移民の子は医者に」

 聞き分けのいい末弟であるチャーリーは、親の言うがまま医者になろうとしていた。親の苦労を無駄にはできないと感じていたのだ。だが、本当になりたいのは詩人だった。「愛」を信じるロマンティストなのだ。

 チャーリー同様に成績優秀で科学に夢中なナターシャは、愛や夢にうつつを抜かしていられる身分ではなかった。アメリカで生き残るためには確実に稼げる職に就かなければならない。ジャマイカへの送還が決まるまでは公立の大学に進むつもりだった。聖域都市ニューヨークでは実現可能な選択肢だ。ただし、壮大な宇宙のミステリーを追いかける科学者になれるとは考えず、実践的なデータ解析者を目指していた。

 ナターシャとの出会いを「運命」と感じるチャーリー。運命など存在せず、出会いは「偶然」だと考えるナターシャ。何れにせよ、2人には今日という1日があった。移民局を出たナターシャは、弁護士とのアポイントメントまで時間があった。チャーリーの面接は先方の都合で延期となった。

 2人は「ホームタウン」のニューヨークを巡った。グランドセントラル駅、チャイナタウン、グリニッジ・ヴィレッジ、ハーレム、コリアタウン、アメリカ自然史博物館、セントラルパーク……ジャマイカへの送還の不安を忘れ、チャーリーとの時間を楽しむナターシャ。ナターシャの魅力に強く惹かれつつ、自分は本当に医者になるべきなのかと自問するチャーリー。

 やがて移民法弁護士との面談の時間がやってきた。ナターシャの運命は、チャーリーの行く末は……。

 「アメリカ人」の定義とは一体何なのか? 国籍? 出生地? 育った場所? 文化? 本作は世界有数の多民族都市ニューヨークの知られざる横顔を、多感で聡明な2人のティーンエイジャーの目を通して描いた作品なのである。

アジア系俳優のハリウッド進出

 『ザ・サン・イズ・オールソー・ア・スター』のユニークな点は、最初に書いたように移民、しかも送還を控えたビザ無し移民と、アメリカ生まれの二世が主人公であることだ。ただし、それは少なくとも予告編を見るまで分からない。この映画はポスターを見ただけで驚かされる。黒人女性とアジア系男性がカップルとして写っているからだ。

 ニューヨークは稀に見る多民族都市だけに、異人種カップルも少なくない。しかし、アジア系女性と黒人男性のカップルはともかく、逆の組み合わせはとても少ない。その希少な組み合わせを主人公としたのは、著者のニコラ・ユーンがジャマイカ系アメリカ人であり、その夫が韓国系だからだ。ユーン(Yoon)は韓国姓だ。

 近年、アメリカの映画とテレビドラマにはアジア系の登場が増えている。昨年、『オーシャンズ8』『クレイジー・リッチ!』で人気を得たオークワフィーナは、今年は主演作『The Farewell』、『The Angry Birds Movie 2』(吹き替え)、『Jumanji 3』と出演作の公開が続く。

 今回、チャーリー役を演じたチャールズ・メルトンも波に乗っている。今年2月にリリースされたアリアナ・グランデのビデオ「Break Up with Your Girlfriend, I’m Bored」にアリアナの相手役として出演。今作『The Sun is Also a Star』を経て、来年はウィル・スミスの『バッド・ボーイズ』シリーズ最新作『Bad Boys for Life』に出演する。

 気になるのは、『クレイジー・リッチ!』で御曹司を演じたヘンリー・ゴールディングと同じく、チャールズ・メルトンもアジア系と白人のミックスであることだ。“純”アジア系の男優がハリウッドで“ハンサム”な役を射止めるまでには、まだ若干の時間が必要なようだ。

※映画と原作小説には現実の移民法と合致しない事象も含まれている
(堂本かおる)

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