「男性稼ぎ手モデル」は、女子の「諦め」が前提にある 就職活動で直面する「結婚や出産」

文=妹尾麻美
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女子大学生の就職活動

 こうした過程のなかで、男子大学生と女子大学生の将来展望は少しずつ違いをみせる。

 1997年以降、女性のみの募集が禁止となり、男女の採用フローも統一されていくことになる。他方で、総合職採用者に占める女性割合は約2割(厚生労働省2015)、女性管理職割合は11.5%(厚生労働省2018a)と増えている様子を見せない。

 近年、企業は女子に対して仕事と家庭の両立のしやすさを採用活動でアピールしているという(Brinton and Mun 2016)。「ライフ・ワーク・バランス」の名のもと、女性のみを想定し、企業の「仕事と家庭の両立」策を打ち出す。企業は女性が結婚や出産で仕事をやめられると痛手になることから、優秀な女性の就業継続を望む。他方で、男性に対してこうした「仕事と家庭の両立」策はアピールされない。ブリントンらは、「男性がたった1日育休を取得したのも育休取得にカウントされる」ことを、日本企業の人事担当者から引き出している。たとえば、企業は男性が育休を取ることを想定しておらず、育児や家事を担う、その権利を有する者として捉えていない。企業は「男性稼ぎ手モデル」を前提に、さらに、女性には「男性と同じように仕事」と(個人の選択で)家事・育児を担うものだと考えている。

 こうした企業の論理に、就職活動をする大学生は適応していく。2015年卒予定の大学3年生に筆者が実施したグループインタビュー(2013年10月、男子4名女子3名)をもとに議論を展開しよう。

 ある女子学生が「結婚してもバリバリ仕事はしたい」「夫婦で稼ぎたい」と話していた。これに対し、ある男子学生が以下のように述べた。

「将来結婚したくてけど(夫婦)どっちも働きたくてって(思っているなら)、それができる会社をいっぱい探して、いっぱいあると思うんで、業種たぶんいっぱい出てくると思うけど、自分が営業向いてるって思ったら今営業を欲してる会社とかどこかとか調べたら自分にマッチした会社が見つかると思うから。」

 ここから見えてくるのは、「結婚しても働く」ことが女性個人と企業の「マッチング」の問題とされている点である。彼はというと、「家帰ったら暖かい飯があるくらいには20代のうちに稼いでおいて、子どもができたらどこの学校でもいかせられる」ようになりたいという。彼も「男性」として企業の論理に適応している。

 もっぱら、男子は「男性稼ぎ手モデル」をあまり疑わずに仕事について考えていく、結婚や出産が仕事に関わるものだとはあまり認識しない。それに対し、女子は仕事について考えるとき、結婚や妊娠というライフイベントをも想定する。だが、なぜ女性個人が女性であるということで女性が働きやすい職場を選択しなければならないのだろうか。「やりたい仕事」「望むライフコース」は何を選んだってよいはずである。男性もどのようなライフコースを望んでも構わない。当然、育児に関わってもよいはずである。もし男子大学生の発言が女性の職業選択のありようだと理解できるならば、まだまだそうできない企業が多いということであろう。それは、「男性稼ぎ手モデル」を当然とする社会の側の問題である。

 しかし、そうした企業や社会に現前と存在する「男性は家事や育児で仕事を制限されることはない」という働き方の前提について具体的に説明されることなく、結婚や出産、育児は女子の問題とされていく。性別に限らずある個人がどのような人生を望み、どのような仕事をしたいのかは自由であるにもかかわらず、女子はこのことと結び付けられ、男子はその逆である。

 加えて、企業はそこである程度成功したモデルを魅力的にみせる。むろん、女性社員のモデルを見て、魅力的に感じ、自分もできると思う女子もいる。他方で、そう思えない女子も多いように思う。この約2カ月後、先の女子大生は「自分がやりたいとか楽しいとか優先してたら、今後困ってくるんだろうな」と、以前と考え方が変わりつつあることを述べていた。彼女は、「スーパーウーマン」のみが働き続けられることを薄々感じている(この点に関する詳細は妹尾2019で議論している)。

 このことはそのプロセスだけでなく、内定後さえ頭を悩ませる。

 これは、2つの企業から内定を得ていた、先とは別の大学の女子学生が語ったことである(グループインタビュー女子2名、2014年6月)。

「2つ(X、Y)で悩んでるんですけど、福利厚生がXの方がやっぱりよくて、Yは育休とか産休について書いてないんですよ、多分あるとは思うんですけどなんかそれをなかなかとりづらい環境なんちゃうかなって。やっぱりまだまだ男の社会やし。Xは育休産休もすごいとりやすいって。今もこの職場で3人とってるよとか。でも、Yの方がやりがいはあるし、専門性がすごく高いから資格もとったりしながらやれる仕事やから、Xもあるんですけど、やっぱりYの方がすごいやりがいはあるかなって。でも残業とか時期によってえげつなくて、そう思ったら。」

「まあ別にわたし定年退職まで働きたいって思ってなくて、でも働かざるを得ない環境やったら働ける環境にはいたいなって思ってて、そういうふうに選べる選択肢を残しておきたいなとは思ってる。できれば長く働けるほうがいいから。(略)大人の人に聞いたら、お父さんはYがいいんちゃうっていって、でもやっぱりお母さんとかおばあちゃんとか女の人はXがいいよっていったりもするから。やっぱりそういう人のことちゃんときいとかなって思ったりしながらまだ悩んでます(注1)。」

 こうして「男性稼ぎ手モデル」に直面し、企業から人生を問われ、自分でも問い直すその先に、労働条件を十分に想定して選ぶことが重要となってしまう(注2)(注3)。

30年で変わったこと・変わらなかったこと

 かつて吉原(1995)は女性が就職活動で仕事に対する意欲を下げていくことを「意欲の冷却」と呼んだ。上野氏もこの言葉を祝辞で用いたように、彼女たちに起こる意欲の冷却は30年たった現在でさえ、大きく変化したとはいいきれない。女性は結婚や妊娠と結び付けられ、なにかの「諦め」を生む、根本的には「男性稼ぎ手モデル」が問題にもかかわらず。

 ただし、この30年で女性と「働く」ことの結びつきは強まってきた。正規雇用の女性は男性と同じように働くことを、またそうでなければ非正規雇用で働くことを求められてきた。とはいえ、非正規雇用の女性の労働は「家計の補助」とされ、十分なキャリアアップは見込めず、低賃金で抑え続けられている。末子年齢15歳から17歳の子を持つ母親は、約25%が正規雇用、約46%が非正規雇用、約20%が無職である(厚生労働省2018b)。これを見る限り、大学生の母親もおそらく約2人に1人が非正規雇用の職についている。

女子が自己分析にノレない理由

 企業が見せる女性の働き方、自分たちの母親の働き方、将来想定される負担……。

 これらのことを考えると、就職活動に組み込まれている自己分析は結局のところ、働くことを中心にできる者の展開する物語ということができるのではないだろうか。そんなことは考えても仕方がないという開き直る形で、適当にやり過ごす者もいるだろう。

 加えて、企業が求める物語は、厳密に検討した条件でさえ、先に見たように自分の責任としていくように思える(中野2015)。「女性であることを十分に考えて選びましょう」というメッセージは、たとえば、妊娠出産後に仕事をやめざるを得なかった女性が「働いてないから」と悩むなど自分自身を苦しめていくことにつながったり、現在を肯定するために自身のかつての考えを変えたりすることにつながっていく。

 しかし、子育てに責任を持つ者(多くの場合、女性)が働きつづけることができないという問題(たとえば、夫の転勤への帯同等も含めて1人が世帯を担い、それを支えるもう1人という「男性稼ぎ手モデル」の問題)はもっと指摘されてしかるべきではないだろうか。

 先の国公立大学の女子学生に「もし男だったら選択肢は異なってたと思う?」と聞いた。

「たぶんそもそも全然違う業界とかほんまにやりたいことを選んでたと思います。これは、現実的な(選択で)、興味からじゃなくて、できそうかっていうので選んでしまったから、もしほんまに男の人やったら無茶なところ選んでたんやろうなって。」

 たしかに、これは反実仮想に過ぎない。ならびに、大学まで努力し、恵まれた立場の女子大学生にしか当てはまらないのかもしれない。

 しかし、就職活動で対峙する「男性稼ぎ手モデル」はそうした彼女たちにさえ「どうせ女の子だし」と思わせるような不公正さを有しているのである(注4)。

注1)彼女たちの母親世代は4年制大学を卒業していない者も多いため、男子とは異なり、親も十分に参考にできるわけではない。
注2)スーザンモラーオーキン(1989=2013)は、結婚の予期が女性の教育期間に関する決断や女性のキャリアに対する目的意識に影響を与えている点について「結婚の予期にかんする脆弱性」と指摘している。
注3)こうした考え方は、当然学校歴によって異なる(藤田2017)。ここで取り上げたのは、どちらも偏差値60程度の大学生である。
注4)むろん、男性は男性で別様の人生を強いられている。一方、「男性稼ぎ手モデル」の再考(男性の育児取得、非正規雇用の賃金の再考、安定的な雇用の確保など)は様々な人に有益なことだと考えられるのである。

引用

Brinton, M and Mun, E, 2016, Between state and family: managers’ implementation and evaluation of parental leave policies in Japan, Socio-Economic Review, Vol. 14, No. 2, 257-281.
藤田結子,2017, 『ワンオペ育児』毎日新聞出版.
濱口桂一郎,2015,『働く女子の運命』文藝春秋.
厚生労働省, 2015,「平成26年度コース別雇用管理制度の実施・指導状況(確報版)」.
厚生労働省, 2018a,「平成28年度雇用均等基本調査の結果概要」.
厚生労働省,2018b,「平成29年 国民生活基礎調査の概況」.
文部科学省,2018,「学校基本調査」.
中野円佳, 2015,『育休世代のジレンマ――女性活用はなぜ失敗するのか』光文社新書.
妹尾麻美, 2019, 「就職活動過程における女子大学生のライフコース展望」『年報教育の境界』第16号(8月刊行予定).
Susan Moller Okin(山根純佳、内藤準、久保田裕之訳), 1989=2013,『正義・ジェンダー・家族』岩波書店.
リクルート, 1996,「第13回大卒求人倍率調査」
リクルートキャリア, 2019, 「就職プロセス調査(2020年卒) 【確報版】「2019年5月1日時点 内定状況」」
吉原恵子, 1995,「女子大学生における職業選択のメカニズム」『教育社会学研究』57:107-124.

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