東京オリンピック・パラリンピックの経済効果が32兆3179億円!? 異常に膨れ上がったワケとは?

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公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会公式ホームページより

 スポーツのビッグイベントの開催や新しい商業施設のオープンなどのニュースが報じられる際、その「経済効果」に関するニュースも付随してよく聞かれます。最近では、元号が変わったことによってもたらされた経済効果の試算もされているようです。

 5月1日に元号が「平成」から「令和」に変わり、その前後は祝日が10日間連なる暦となりました。このようなスペシャルな行事が行われたとき、その経済効果がいくらであるかという報道がよくされます。関西大学の宮本勝浩名誉教授の調査によれば、改元に伴う10連休がもたらす経済効果は2兆1395億8969万円。例年の大型連休と比較しても破格の経済効果だそうです。

 またイベントだけではなく、キャラクターや新しい商業施設に対しても、その経済効果が計算されることがあります。

・くまモン:1244億円 

(2011年11月〜2013年10月 日本銀行熊本支店の試算)

・嵐の活動休止:3249億円 

(2019年〜2020年 関西大学 宮本勝浩名誉教授の試算)

・ラグビーW杯:4372億円 

(2019年 公益財団法人ラグビーワールドカップ2019組織委員会の試算)

 発表される額がとても大きい上に、自身の経済活動に直接関わりがなければ実感することが難しいこの「経済効果」とは、いったい何なのでしょうか。

「経済効果」のしくみ

 本来は厳密な定義があるのですが、簡単に言ってしまえば、「それを行うことで(もしくはそれが生まれたことで)動くお金の総額」ということになります。なお、マスコミが報道する「経済効果」は、厳密に言えば「生産誘発額」と定義される金額になります。

 身近な例として「ラーメン」を例に経済効果を説明しましょう。1杯500円のラーメンを売るという経済行動に対して誘発される生産活動を列挙していきます。

 ラーメンを作るためには、麺とスープが必要となりますが、1杯500円のラーメンに対して、麺に100円、スープの原料となる豚骨に200円がかかっているとします。さらに100円の麺に対して、原料の小麦に50円かかり、200円の豚骨の元となる豚に195円かかっているとします。このときラーメン1杯を販売するために動いたお金は、

 500+100+200+500+195=1045円

 となり、これがラーメン1杯を売ったときの「経済効果」となるのです。

 ちなみにラーメンに対して支払われる500円を「直接効果」、ラーメンを製造するために誘発される生産額300円(麺100円、豚骨200円)やその原料を製造するために誘発される生産額245円(小麦50円、豚195円)を「波及効果」と呼びます。

 このように「直接効果」と「波及効果」の合計が「経済効果」として発表されているのです。

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 総務省や各自治体は、さまざまな産業の経済活動を行うにあたって、どれだけのお金をどの産業に注ぎ込み、またどの産業にどれだけ販売したかというデータを調査し、それを「産業連関表」とよばれる一覧表にまとめています。生産誘発額は、この表の数値を「行列」(ラーメン屋の前にできる行列ではなく、数学(線形代数)で用いる用語)として演算し、求められます(日本の産業連関表は、総務省のサイトからダウンロード可能です)。

 さて、「500円のラーメンの経済効果が1045円」と聞かされて、みなさんはどのようにお感じになられるのでしょうか。1045−500=545円をラーメン屋さんが儲けているわけではないことは自明でしょうから、そう考えるとあまりピンとこないというのが正直なところでしょう。

 というのも、1045円にはラーメンの価格500円、麺の価格100円、小麦の価格50円が含まれているため、小麦部分が三重に加算されていることになります。つまり、生産額が「新たな経済価値の生産額」を如実に示しているわけではないことがわかります。

 実際に儲かっている部分は、ラーメン屋においては500−(100+200)=200円、製麺所は100−50=50円、精肉屋は200−195=5円ということになります。この合計255円がラーメンを売ることで生じる「付加価値」となります。

 つまり「新たな経済価値を生み出した」という意味での「経済効果」を見るときは「付加価値誘発額」で検討する必要があるのです。

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