女性嫌悪・黒人差別・オバマ嫌悪~トランプが女性ドル紙幣を延期した理由

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奴隷と奴隷主が紙幣の両面に

 ソフィアが手紙を書いたのち、女性たちが女性紙幣実現のためのキャンペーン「W20」を開始し、72,000以上のオンライン署名を集めた。W20は「Women」、女性参政権の「1920年」、「20ドル紙幣」を意味する。アメリカでは紙幣のうちチップに多用される1ドル札を除くと、もっとも頻繁に使われるのは20ドル札だ。いわば日本の1000円札にあたる。ちなみに10ドル札は20ドル札に比べると印刷枚数が極端に少なく、初の女性紙幣にふさわしくないと多くの女性が考えたのだった。

 2015年、オバマ政権の財務長官が「2020年までに10ドル紙幣を女性とする」と発表した。しかし、女性たちは20ドル札にこだわった。かつ10ドル札のアレクザンダー・ハミルトンがブロードウェイ・ミュージカル『ハミルトン』の大ヒットもあって人気が高く、ハミルトンの抹消に反対の声も上がった。

 2016年、同じオバマ政権の財務長官が「新20ドル札にハリエット・タブマンを印刷」「現行20ドル札のアンドリュー・ジャクソンは新紙幣の裏面に印刷」と発表した。ジャクソンは残酷な政策により今となっては疎む層が増えたが、保守派を中心に根強い人気も保つ。そこで編み出された折衷案が二人の両面印刷だ。だが、この案は非常に皮肉だ。タブマンは奴隷として生まれ、奴隷解放者として活動した女性。ジャクソンは奴隷を擁する地主でもあった。奴隷と奴隷主が紙幣の両面に印刷されるのである。ただし、この年でオバマ政権は終わり、新紙幣の発行自体は次政権の2020年に繰り越されることとなった。

 この時期、大統領選中のトランプはタブマン紙幣を「ポリコレだ」と揶揄し、「タブマンは2ドル札に印刷しろ」とも発言している。2ドル札は人気がないために増刷もされず、ほとんど出回っていない紙幣だ。

 2017年のトランプ政権発足後、タブマン紙幣についての進展がなくなった。そこで先日、アヤナ・プレスリー下院議員が公聴会でトランプ政権の財務長官に「2020年に発行されるのか」と質問した。財務長官は「自分は偽造対策に集中しており……」「そのため2028年までは発行できず…………」「私がもしトランプ大統領の2期目に仕えたとしても、さらにその先なので、なんとも……」と、歯切れの悪い返答に終始した。

 これ以上が経緯だ。

 本来は「女性」にまつわる事案だったはずが、いつの間にか「人種」およびリベラルと保守の対立問題をも含んでしまった。これがアメリカだ。一見、人種に関係なく思える事象もほとんどの場合、人種問題が潜んでいるのである。

子供の夢を叶える大統領を

 複雑な経緯で多くの人や世論が関わっているが、私がもっとも腹立たしく思うのは8歳の少女と大統領の約束を、別の大統領が反故にしようとしていることだ。仮に2028年に新紙幣が発行されたとしても、ソフィアはすでに22歳だ。もちろん事情を理解し、ハリエット・タブマンの新20ドル紙幣を手にして大きな達成感を得るだろう。しかし、ソフィアはもう子供ではなくなっているのである。

追記:タブマン紙幣の発行の遅れに業を煮やしたあるアーティストが、タブマンの顔のスタンプを販売している。現行の20ドル札のジャクソンの顔の上に押すとタブマン紙幣となる。スタンプは財務長官の公聴会の後、ソールドアウトとなった。
(堂本かおる)

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