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成績別クラス編成の効果を上げるカギは教員のモチベーション・技量にある 

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「Getty Images」より

 同僚や友達など周囲の人間の生産性の高低の影響を受けて、自分の生産性が上下することを「ピア効果」といいます。教育分野では生産性が学力に置き換わりますが、一般的には、教室の中で高学力層にいる生徒は低学力層の生徒に足を引っ張られることはなく、反対に低学力層の生徒は、高学力層の生徒に引っ張られて学力が向上する(正のピア効果がある)とされています。

 このピア効果を最大化するには、高学力層の生徒と低学力層の生徒でクラスを編成すればいいことになります。しかし、実際に中学力層の生徒を教室から抜いた実験を行ったところ、低学力層の生徒同士がつるむようになり、学力があがるどころか低下してしまうという結果がでました。この実験については、高校受験で合格した3つの異なるレベルの学校のうち、どの学校に進学するのが学力を向上させるのかを考える記事で紹介しています。

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ウェジー 2019.04.30

 中学力層の生徒を教室から抜くというのは現実的ではない、と考えた読者もいるかもしれません。しかし特定の学力層の生徒で教室を固めるクラス編成は比較的よく見られる現象ではないでしょうか? このような子供の学力に応じてクラス分けをすることを「トラッキング」といいます(トラッキング自体は、職業科と普通科の選択のように、もう少し広い概念です)。

 このトラッキングの概念は、首都圏で盛んな中学受験を考える際にも活きてくるはずです。一般的には、高学力層の子供がお受験をするメリットはイメージしやすいかもしれませんが(外国のエリート学校の分析結果が日本にも当てはまるのであれば、イメージと反して実は大してメリットがないのかもしれませんが)、中学力層や低学力層の子供がお受験をするメリットがあるのかを考えるときに、同じ学力層で輪切りされた集団の中で学ぶことは学力向上に効果があるのかないのか、というトラッキングの分野でのエビデンスは参考になるはずです。

 そこで今回はこのトラッキングが子供の学力を向上させるのか、それとも低下させてしまうのかを考えるために、経済学の一流誌に掲載された、ランダムに子供をトラッキングがかかった教室とそうでない教室に割り振るというケニアでの実験結果を分析した論文を紹介しようと思います。

トラッキングは学力を向上させるのか?

 世界銀行の支援の下にケニアで行われた実験は次のようなものです。

 小学校1年生のクラスが一つしかない120の学校に、もう一人教員を雇ってクラスを2つに分割させました。ランダムに選んだ60校では、二つのクラスの学級編成をランダムに行いましたが(非トラッキング)、残りの60校では学力テストの結果で上半分と下半分の子供でそれぞれクラスが編成されるようにしました(トラッキング)。18カ月後に試験を実施し、非トラッキングとトラッキングの子供の学力を比較することで、トラッキングが子供の学力に与える影響を推計できるという実験です。

 この実験の結果、トラッキングは確かに子供達の学力を向上させました。その効果量は標準偏差0.18分。これは教育政策としては比較的効果の大きいものに分類されます。よりイメージしやすいように他の教育政策と比較すると、このトラッキングの学力向上効果は、同じ国で行われた少人数学級政策の効果の2倍程度あります。少人数学級政策は新たに教員を雇う必要があるのでかなり高額なオプションになりますが、トラッキングはただ成績に応じて生徒のクラス分けを決めるだけなので、安価なオプションになります。安価なオプションが高価なオプションの二倍の効果をもたらすわけですから、いかに費用対効果に優れたものであるかが実感できるかと思います。

 さらに興味深いのは、成績上位のクラスと下位のクラスでその効果量に統計的に有意な差はなく、成績下位クラスのトップ層と、成績上位クラスの最下位層も学力を向上させたという点です。

 最初に一般的に言われているピア効果として、「高学力層にいる生徒は低学力層の生徒に足を引っ張られることはなく、反対に低学力層の生徒は、高学力層の生徒に引っ張られて学力が向上する」と紹介しました。このピア効果があてはまるとすれば、成績下位クラスのトップ層は学力が上がりも下がりもしないはずです。反対に成績上位クラスの最下位層は、ピア効果との合わせ技でトラッキングの恩恵が多くなると予想されます。しかしそうした結果はでなかったのです。

 私はケニアで仕事をしたことが無いので文脈を完全には理解できませんでしたが、この論文の筆者たちは、ケニアの教員達は成績上位層の指導を好む傾向があり、これが影響したと考えているようです。確かに、教員の雇用形態別の影響を見たときに、正規教員への昇進を狙う非正規教員は上位・下位どちらのクラスでも生徒の成績を向上させましたが、特に頑張るインセンティブが無い正規教員は上位クラスでのみ生徒の成績を向上させたので、確かにケニアの教員は成績上位層の指導を好んでいるのかもしれません。

 また、数学の試験において下位クラスでは簡単な問題の正答率が上昇する一方で、上位クラスでは難しい問題の正答率が上昇しました。これは断定的なエビデンスとまでは言えませんが、教員達が子供達の学力に応じて教授法やカバーするカリキュラムを工夫した形跡も見られました。

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