
映画『コレット』公式サイトより
プルーストやバタイユらによって支持され、『ハリーポッター』シリーズの著者J・K・ローリングのロールモデルとしても知られる仏女性作家・シドニー=ガブリエル・コレットの伝記映画『コレット』が、今月17日より日本で公開された。ひと足先に公開された韓国では、同作をめぐってある社会現象が巻き起こっている。
キーラ・ナイトレイが演じる本作の主人公・コレットの人生は、波乱万丈だった。コレットは20世紀に突入したばかりのフランスで、夫のゴーストライターとして小説を書き始めるが、作品が人気を得るにつれて夫の影に隠れた表現活動に不満を抱くようになる。ついに自身の存在を明らかにしたコレットは、小説作品を発表するかたわら演劇作品の脚本執筆や演出家としても頭角を現していき、女性の名で本を出版することさえ違法であった当時のフランス社会において、“自己の解放”を叫んでいく――。
およそ半世紀前、社会における女性のキャリアの開拓者として実在したコレットだが、私生活では3度の結婚を経験しており、女性の愛人を持ち、男装を嗜むなど、自由奔放な性格も有名だった。
公私ともにジェンダーに囚われない生き方を貫いたコレットの半生を描いた映画『コレット』は、日本に先駆けて世界各地で公開され、フェミニズム映画として高く評価されている。とくに韓国では、映画の上映を巡って、SNS上である“運動”が起こっている。
韓国のSNS上でブームを起こした“コレット観覧運動”
『コレット』の韓国における興行は当初、難航していた。公開初週は169スクリーンで公開されていたものの、第2週には40スクリーンへと大幅に数を減らし、一般的な劇場作品ならば打ち切りが決定するような状況だった。しかしこの危機を救ったのは、本作を支持する多くのファンの声だった。
TwitterやInstagramなどのSNSでは、「#콜레트처럼」(「コレットのように」を意味する)というハッシュタグをつけて、映画のチケットや劇場用ポスター、コレットを描いたオリジナルイラストの写真と共に映画の感想が綴られた投稿が盛んに行われ、鑑賞の呼び掛けや、上映延長が訴えられた。こうした“コレット観覧運動”はSNS上で話題を呼び、劇場の動員数もじわじわと上昇、公開1カ月後にはついに動員数4万6000人以上を記録して、上映館の拡大が決定している。
このように近年、韓国のSNSでは、映画の観覧運動が盛んに行われている。たとえば、慰安婦問題を扱った作品『Her story』(ミン・ギュドン監督/2018年韓国公開)や、女性ヒーローを前面に出したマーベル作品『キャプテン・マーベル』(アンナ・ボーデン、ライアン・フレック監督/2019年韓国公開)もSNS運動の対象となっていた。直近では、5月7日に韓国公開されたばかりの女性バディー・クライムエンターテイメント作品『ガール・カップス』(監督)も、SNS運動の萌芽を見せている。
このような韓国におけるフェミニズム映画の動きは、日本に住む私たちの目にはいささか特異な現象に映るものだ。日本では、政治活動目的のデモや一部の購買運動は起こっても、それが映画の上映存続のように、目に見えるかたちで影響を及ぼす事例は、そう身近ではない。日本でも女性の権利や性差別に関するトピックが話題にのぼるようになってきたとはいえ、ひとつの映画作品をめぐって草の根的な運動が発生し、興行成績に結びつくという現象は想像しがたい。
では、なぜ韓国でフェミニズム映画の観覧運動が起こり、広まっているのだろうか? その要因としては、近年の韓国社会が経験したふたつの社会的変化が挙げられるだろう。