トランプの「ディール」を崩せなかった安倍外交、日本の期待は空振りに

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威力増すトランプ砲

 それどころか、トランプ砲の威力はますます強まり、中国だけでなく、日本にも及びそうな砲撃も少なくありません。なかでも2つの動きに注意が必要です。

 1つは、中国の通信機器大手ファーウエイを排除する動きが強まり、その余波が米国企業や日本企業にも及ぶようになったことです。米国ハイテク株が売られ、日本の通信、半導体関連などにも影響が及んでいます。中国のハイテク化に対する警戒は、それが安全保障面で米国の脅威となるとの認識が強まって一段と攻勢が強まっています。

 こうした警戒は中国のドローンにも向けられ、監視カメラ業界にも監視を強めるようになっています。そしてこれらと並行する形で、中国製品のほぼすべてに関税を課す準備をしています。米中戦争の激化が、日本も含め、世界経済への大きな重しになりつつあります。

 もう1つは、米国商務省が5月23日に提示した「相殺関税」です。ウィルバー・ロス商務長官は、自国通貨を安く誘導することで不当な利益を上げ、米国の産業や国民に不利益を与える国からの輸入品に、これを相殺するための「相殺関税」をかけるルールを検討していると言います。

 当初は中国をターゲットにしていると考えられていましたが、米国は「為替報告書」で、中国のほか、日本やドイツ、韓国などを「監視国」にリストアップしています。そしてトランプ大統領はかつて日本の円は長期的な均衡水準から20%ほど円安になっているとの認識を示しました。当時のドル円は120円前後でしたから、ドル円は当時で100円程度が適正水準と見ていた節があります。

 またムニューシン米財務長官も、日米交渉には為替条項も盛り込みたいと言います。日本は近年、政府による為替介入はしていませんが、米国は日銀の異次元緩和で円を不当に安く誘導していると見ている模様で、それが日本の金融政策から自由度を奪い、ひいては円高に誘導されるとの懸念がもたれています。

 日本政府が米国との「蜜月」を演出する一方で、トランプ砲は一段と威力を増して、中国や日本に砲撃準備をしているように見えます。

安倍総理の選挙にも手かせ足かせ

 トランプ大統領が示した「多くの問題は選挙後の8月に発表」という認識は、表向き安倍総理の選挙戦略に配慮した発言に見えます。しかし、農業や自動車を巡る厳しい通商交渉自体を伏せておきたかった安倍政権にとっては、8月までにこれを日米で協議することが白日の下にさらされてしまいました。

 そればかりか、実はこれが安倍総理の選択肢を限定させる面があります。今通常国会の会期は6月26日までとなっています。その直後の28日、29日には安倍総理が初めて議長を務めるG20サミットが大阪で開かれます。ここで近年低調気味のG20を活性化させられるか、安倍総理のリーダーシップが問われる重要な会議となります。

 したがって、安倍政権としては会期を延長してその間にG20で成果を挙げ、7月に衆議院を解散し、8月にダブル選挙というシナリオを密かに描いていたといいます。ところが、トランプ大統領から「選挙後の8月に結論を出す」と言われ、総理は慌てたはずです。日程を逆算すれば、政権に有利なダブル選挙に出るなら、6月の会期末に解散を打ち、7月に衆参ダブル選挙ということになります。

 その場合、衆議院を解散し、世間が選挙モードのなかで大阪G20を開催することになり、安倍総理の選挙戦略には負担になります。さりとて、衆議院を解散せずに参議院選挙を単独で行えば、自民党内部の分析では野党の共闘で与党が議席を減らすリスクが高まる、との結果が出ています。

 安倍総理としてはもう一度トランプ大統領に泣きついて、8月の発表を9月以降に先延ばししてもらうか、あえて7月に衆参ダブルに打って出るかの選択となりますが、トランプ大統領は少しでも早く日米通商協議をまとめ、結論を出したいとしているので、再度先延ばしを求めるのは極めて難しい状況にあります。

 あとは7月に予定通り参院選を単独で行うか、G20会議と重なっても野党の共闘が整わない7月にダブル選挙に出るか、戦略は限られてきます。異例の接遇によって選挙までの「時間」を買ったはずでしたが、詰めがやや甘かったようです。あるいは、外交を政治利用する点では、トランプ大統領のほうが役者は一枚上だった、ということかもしれません。

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