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「年金が足りないため自分でも準備を」事実と正論を述べた金融庁を叩いても、年金は増えない

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生き延びるためのマネー/川部紀子

 ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子です。今年は厚生労働省が5年に1度行う「年金制度に関する検証」の年ということもあり、何かと年金が注目されることを予想していました。予想通り、公的年金が繰り返し話題になっていますが、特に5月22日金融庁の「市場ワーキング・グループ」がまとめた「高齢社会における資産形成・管理」報告書(案)が公表され、翌日に各種メディアが「公的年金だけでは足りない」といった見出しで報道したことをきっかけに、各所で炎上の様相が見られます。

 今回は、この報告書案や炎上内容について解説していきたいと思います。

金融庁の報告書(案)前書きからわかること

 50ページを超える「『高齢社会における資産形成・管理』報告書(案)」の内容は、「はじめに」を読むと全体の流れを予想することができます。

 筆者なりにポイントをまとると……

 まず、金融を巡る特に大きな変化の背景として「人口減少」「高齢化」が挙げられています。そして顧客は人生 100年時代に備えた資産形成や管理に取り組んでいくこと、金融サービス提供者はこうした社会的変化に適切に沿った金融商品・金融サービスを提供することが重要だと述べています。また、この報告書の公表をきっかけに個々人、金融サービス提供者などの意識が高まり、具体的な行動につながっていくことを期待しているとのことです。

 老後に備えることが重要なのはいまさら言われるまでもないことですし、業者へのコメントも監督官庁として至って当たり前という気がします。

炎上の原因となった内容

 炎上の原因となったのは、P21の「長寿化に伴い、資産寿命を延ばすことが必要」という項目です。

 ここには毎月の実収入と実支出を比べると「夫 65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円」と書かれています。また「20~30 年の人生があるとすれば不足額の総額は単純計算で1,300万円~2,000万円」ともあります。これは年齢から考えて、「公的年金だけでは足りない額」と解釈できます。

 さらにこの報告書案は、「今までより多くのお金が必要となり、長く生きることに応じて資産寿命を延ばすことが必要」としています。つまり、命より先にお金が尽きてしまわないようにしなければいけない、ということです。

 そのための対策も簡単に提案してあります。現役期であれば、「長期・積立・分散投資による資産形成」、リタイヤ期前後であれば、「生涯に亘る計画的な長期の資産形成・管理」などです。P29からは、「長期に亘る資産形成を支援する制度」として、この連載でも繰り返し解説してきたiDeCo、つみたてNISAという名称も出ています。

 報告書案に書いていることは我々ファイナンシャルプランナーなどにとっては、当たり前どころか「今さら」と感じてしまうほど、現実とそのための対策です。筆者も、昨年発売した著書『まだ間に合う 老後資金4000万円をつくる! お金の貯め方・増やし方』(明日香出版社)で、まさに報告書案と同様の論法で、現実と対策について書いてきました。

 しかしこの当たり前のことが懇切丁寧に書かれた報告書案は、 どういうわけか各種メディアでセンセーショナルに取り上げられ、 ネット上でも炎上しました。

炎上している場合ではない個人

 重大な誤解としては、「とうとう国が年金不足を認めた」という論調です。しかし今回の公表は金融庁によるものであり、年金の監督官庁である厚生労働省のものではありません。

 厚生労働省は毎年、平均的な年金の受取額を公表しています。また、この国の年金は世代間で扶養する賦課方式という仕組みを採用している以上、少子高齢化が進めば収支が苦しくなるのは当然のことです。金融庁はこの仕組みと既に公表されている事実を書いただけです。金融庁が伝えたかったことは、そうした現実のもと、対応策となり得るiDeCoやつみたてNISAのPR、そして業者側がどうあるべきか、ということだったのではないでしょうか。

 他にも「2018年に年金資産を15兆円も減らしたくせによく自助と言えるな」というタイプの、年金運用を行う機関GPIFへのツッコミも多くありました。ではそれまでに年金資産がどのくらいあったかはご存知でしょうか? 2017年末には150兆円ほどありました。これが30兆円しかなかったら15兆円の減少は非常に大きな額でしょう。それに資産運用をしていれば2018年に10%減ることは大いにあることです。また、年金は今年換金する必要のあるものではなく未来永劫続けていくものです。換金時にマイナスになってしまうのは困りますが、未来永劫続いていくものですから、その間にマイナスになることもあります。年金運用は、含み損を受け入れやすいタイプの運用なのです。続けていくうちに増やしてければよいのです。確かに15兆円減ったのは事実ですが、それまでの累積黒字が56兆円だったというデータはほとんど闇に葬られたようにも感じます。角度を変えて見ると随分違う話になるのです。

 政府への批判という論調のメディアや団体、有名人は多いのですが、それを読んだ個人はどうすべきか。重要なのはその後の行動です。

 一個人が政府に疑問を持ったり時には批判したりすることや、周りの人と議論してみることも、関心が高い証ですし無意味なこととは思いません。しかし自身の年金が増えることには繋がりません。反発して国民年金保険料を払わないという行動に出たら、未納期間に応じて自身の老後の年金もどんどん減ります。影響力のある人が政府を批判すると、賛同したい気持ちになるかもしれませんが、恐らくその影響力のある方々は老後のお金になんか困らないような人でしょう。

 例え気に入らなくてもこの国で生きていくのであれば、自分が自分のためにできることを見つけて行動する必要があります。今回の公表も炎上も大きなヒントになるのはないでしょうか。

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