DV加害者に必要な対話とは? 暴力的なコミュニケーションを肯定する「男らしさ」の“学び落とし”

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感情の言語化とパワーの適切な使い方

清田 暴力と結びつきそうな男らしさを「アンラーン」していくプログラムとは、具体的にどういったものになるのでしょうか。

中村 脱暴力の対策は「暴力のナラティブ」を取り出すところから始まるんですね。ナラティブとは「自己の物語化」といった意味の言葉ですが、当人がどういう認識の元に暴力行為に及んだのか、まずはそこを聞き取ります。前編で挙げた「中和化のロジック」などもそれですね。

清田 都合のいい言い訳とか、正当化のための理屈などを検証し、修正していくというイメージでしょうか。

中村 そうではあるのですが、例えば「認知の歪み」というような価値判断はせず、あくまでナラティブとしてそのまま取り出します。「歪み」という表現に対しては「正しい認知」「適切な認知」が想定されることになるわけですが、ここには正解のようなものが存在するわけではないので。そうやって当人の言い分を聞き取った上で、どうしてそう思ったのか、相手はそのときどんな気持ちだったと思うかなど、いろいろ質問を投げかけながらナラティブを耕していきます。

清田 自分の感情や思考様式について言語化していくわけですね。

中村 そういう対話の中で男性たちの「意識覚醒(コンシャスネス・レイジング)」を促します。ただし、男性にとって感情の言語化というのはなかなか難しいもので、まさに清田さんの被害体験のように、DV加害者たちも自分の行為をある種の「エピソード化」してしまっていて、それを解体するのに時間がかかるわけです。

清田 僕も「あのとき自分は怖かったんだ」「本当は今でも悔しい気持ちが拭えない」というようなことを自覚し、認めるまでにものすごく時間がかかりました。

中村 基本的にはグループワークを通じた語り合いの中で言語化を進めていくことが多いけど、読書で言葉を仕入れたり、あるいは自分の体験を芝居にするというアプローチもある。諸外国の刑務所では「プリズンシアター」といって、受刑者たちが自分の犯罪を演劇で表現し、みんなで評しあうというプログラムが実際にあったりします。言葉にならないから行動化してしまったわけで、そこを改めて言葉にしていくことはとても大切です。

清田 ひと口に「言語化」といっても様々な手法があるんですね。

中村 ただ、もちろん言葉にするのは大事なんだけど、今度は脱暴力のプロセスによって“腑抜け”になってしまう男性も一定数いるんです。彼らにとって暴力とはパワーそのものなんですよ。誰かを攻撃することによって自分を奮い立たせてきた人にとって、脱暴力は生きる力を奪われることにすらなりかねない。そういう男性たちに対しては、例えばボクシングのようなプログラムが有効だったりします。つまり「殴るならちゃんと殴れ」「弱い者には手を出すな」と、卑怯な暴力を責任あるパワーに組み替えていくアプローチですね。プロボクサー経験者などが指導に当たっているところも多く、効果もてきめんです。これを「リフレーミング」と言います。

清田 なるほど。感情を言葉にしていくことと、持っている力を適切に使えるようになることは、男らしさの問題を考える上で重要な両輪となるわけですね。

中村 今回は暴力と男性性にまつわる話が中心になりましたが、DVの問題で真っ先にケアされるべきはもちろん被害者です。近しい人から暴力被害に遭うと信頼や安心の基盤が壊れ、常に恐怖を感じながら日常生活を送ることになります。自分を責めてしまったり、過剰に加害者の世話を焼いてしまったりする人すらいます。暴力が相手を異常な事態に追い込む行為であることは、すべての人が理解しておくべきだと思います。

清田 中村先生は「地雷とともに暮らしているようだ」「卵の殻の上で生活しているようだ」というDV被害者の声も紹介されていましたが、日常を奪われるのって最も苦しいことですよね……。

中村 被害者の保護および支援は引き続き拡充されていくべきですが、一方で加害者への対策も同時に進めていくべきだと私は考えています。かつて「売春」を「買春」と言い換え、買う男の問題なのだと読み替えたように、暴力をジェンダーの視点から捉え直し、男らしさに関する問題として掘り下げていく。まだまだ未開拓な部分も多いけど、男が自分たちで言葉を作っていかなくてはならない。

 私はよく「ワード(word)がワールド(world)を作る」と言っています。言葉がないと現実を認識できないので。でも、既製品の言葉に頼ると単に男らしさワールドが再生産されるだけなので、これを破壊する創造的なワードが必要です。そのためにはまず、競争的・暴力的に陥らない男同士の関係を模索していくことが大切です。そういう意味では、清田さんたちがやっている男同士の恋バナも有用な試みだと感じています。

清田 確かにそうですね。恋バナが暴力抑止につながるとは思いもよりませんでしたが……これからも語り合いを通じて男性性の問題を考えていきたいと思います!

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服装が冬……原稿まとめに時間がかかってしまってすいません!

 

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