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昔の女性も「経血コントロール」はできてない~民話好き視点からの三砂ちづる批判

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オニババは超多産

 三砂ちづるが同年に刊行した『オニババ化する女たち』(光文社、2004)は、「日本の昔話には、よくオニババや山姥が出てきます」(p. 3)という文章から始まり。オニババが小僧などを襲う昔話についての説明があります。そして次の段落にはこんな指摘が書かれています。

社会のなかで適切な役割を与えられない独身の更年期女性が、山に籠もるしかなくなり、オニババとなり、ときおり「エネルギー」の行き場を求めて、若い男を襲うしかない、という話だった、と私はとらえています。

この「エネルギー」は、性と生殖に関わるエネルギーでしょう。(中略)それを抑えつけて使わないようにしていると、その弊害があちこちに出てくるのではないでしょうか。(pp. 3-4)

 民話好きの私はこれを読んでビックリしました。というのも、山姥とか鬼婆は子持ちに決まっていると思っていたからです。金太郎は山姥の子供だというお話がありますし、元祖鬼婆と言えそうな鬼子母神は極めて多数の子供を持つ母親でしたが、他人の子供を食うということで恐れられ、ブッダに諫められて出産の神に生まれ変わりました。

 山に住んでいて人を食うような女性の怪物は山姥、鬼婆、山母、山女、山姫などいろいろな呼び方で呼ばれますが、かなり複雑怪奇な存在です。単に破壊的であるだけではなく、しばしば非常に多産で、幸運をもたらすこともあり、自然がもたらす危険と豊穣の両方を象徴するようなところがあります。柳田国男は『山の人生』で山姥と出産をめぐる民話をとりあげていますし、吉田敦彦『昔話の考古学』第2章では、異常に多産な山姥の民話がいくつも紹介されています。国際日本文化研究センターが提供している怪異・妖怪伝承データベースにも、鬼婆に子供がいる話とか、子持ちの山姥が安産祈願のため祀られている話とかが複数登録されています。

 こういう昔話を眺めていると、鬼婆とか山姥というのは「性と生殖に関わるエネルギー」を持て余している「独身の更年期女性」どころか、生殖エネルギーをフル活用して子供を産みまくっている女性です。地母神系の女神が凶暴で破壊的なのは神話の世界ではとくに珍しいことではなく、山姥が多産で人食いなのも驚くようなことではありません。三砂ちづるは「昔話でいうオニババというのは、(中略)女の人というのはある程度に時期になったら、きちんと相手を与えて、子どもを産ませて…とどういうことさせておかないと、こんなふうになっちゃうぞ、というメタファー」(p. 231)だなどと言っていますが、これには根拠がありません。むしろ鬼婆は、荒ぶる母性のようなものを象徴する姿で出てくることのほうが多いのです。

 民話を翻案・再話して新しいフィクションを作り出すのは全く問題ないと思いますし、むしろクリエイティヴなことです。しかしながら、三砂ちづる『オニババ化する女たち』は、民話の鬼婆の姿を完全に無視し、自分の頭の中で勝手な鬼婆像を作って、そこから導き出した道徳を現代女性に対して説こうとしています。「日本人は、昔はすぐれたからだを持っていたのに忘れるのが早い」(『オニババ化する女たち』、p. 248)などと言っていますが、日本語で語りつがれてきた面白い民話については、忘れるどころか調べもしないのです。

 三砂ちづるに限らず、昔の日本をことさらに称賛する人々は、日本の神話や民話、古典などの文化を保存することには無頓着だったりします。民話や神話は過剰な愛国心を煽るために使われやすいものなので、度が過ぎた礼賛などには注意する必要がありますが、『昔の女性はできていた』や『オニババ化する女たち』はそれ以前の問題を抱えています。昔のことを礼賛しているわりに、全く昔の物語を大事にする気がないのです。

参考文献

上野千鶴子他『バックラッシュ!なぜジェンダーフリーは叩かれたのか?』双風舎、2006。
倉野憲司校注『古事記』岩波文庫、1977。
鈴木菜穂「金太郎と民間説話」『口承文芸研究』21 (1998):48-62。
高島葉子「山姥とハッグ妖精の比較研究―日本とブリテン諸島における民間信仰の女神とその源流」、博士論文、大阪市立大学、2014。
田中ひかる『生理用品の社会史-タブーから一大ビジネスへ』ミネルヴァ書房、2013。
田中美津『かけがえのない、大したことのない私』インパクト出版会、2005。
蓮田善明訳『現代語訳古事記』岩波書店、2013。
三砂ちづる『オニババ化する女たち』光文社、2004。
三砂ちづる『昔の女性はできていた-忘れられている女性の身体に“在る”力』宝島社、2004。
柳田国男『遠野物語・山の人生』岩波文庫、1976。
吉田敦彦『昔話の考古学-山姥と縄文の女神』中公新書、1992。
若尾五雄『鬼伝説の研究-金工史の支店から』大和書房、1981。

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