尼崎高等学校バレー部の体罰はどうして保護者から許されたのか

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体罰をする教師のほとんどは処分されない

――とはいえ、世間では体罰へのバッシングが年々強くなっているように感じますが、司法や行政の対応はどうなっているのでしょうか。

内田:世間では随分批判されるようになった先生の体罰ですが、司法や行政はまだまだ寛容です。

非常にわかりやすいのが、教職員への懲戒処分です。統計によると、教員の飲酒運転が発覚した場合、2件に1件は懲戒免職処分が下っています。わいせつ関係の事案も同様で、被害者が教え子か否かにかかわらず、やはり2件に1件は懲戒免職処分、即ちクビになっています。ところが、体罰を行った教員が懲戒免職処分になることは滅多にありません。2012年の桜宮高校の事案はさすがに懲戒免職処分となりましたが、数年に1件程度です。

(文科省が公表している「体罰の実態把握について」によれば、平成27年度:公立の学校での体罰発見件数は721件、懲戒免職は0件。平成28年度:公立の学校での体罰発見件数は654件、懲戒免職は1件。平成29年度:公立の学校での体罰発見件数は585件、懲戒免職は0件となっている)

児童生徒が骨折しようが鼓膜が破れようが、体罰常習犯であろうが、クビにはならない。学校という空間において体罰という名の暴力は「指導の一環」と見なされてしまうのです。

体罰をする大人、つまり先生たちは子どもたちの教育のためにやっている。そのような理屈が通り、発覚すれば「行き過ぎちゃいました、ごめんなさい」と謝罪するだけ。会見などで学校は「行き過ぎた指導」といった言葉を用いて釈明しますが、あくまでも“指導”という前提は崩さずに、ただし「ちょっと手が出ちゃいました」というストーリーにされます。

――教育委員会でも「体罰は指導の一環」という理屈が残っているのですね。

内田:その上、体罰は、刑事責任も民事責任も問われにくい。他人の顔を殴って鼓膜が破れるなんて、一般社会では傷害罪にも問われかねませんが、ここでも「教育」が絡むと一気に問われにくくなります。

――「教育」だから傷害罪が問われないなんて、子どもという存在が軽んじられているように思えます。民事ではどうでしょうか?

内田:民事では、国家賠償法という公務員全体に適用される法律があります。先生も含め公務員は公共性の高い重要な仕事を行いますが、人間は当然ミスを犯します。そこで、公務員が何か問題を起こした時は国や自治体が賠償責任を負いましょうというのが、国家賠償法です。

となると、先生の体罰で傷ついたと子どもや保護者が民事訴訟を起こし、たとえ訴えが認められたとしても、賠償金は国や自治体が全部払ってくれちゃうんですね。つまり、訴えられても先生たちは実質無傷で済んでしまう。しかも先ほども言ったように、体罰では滅多にクビになりません。体罰が指導の一環として認められていることや、国家賠償法が先生たちの暴力行為を支えているという側面もあるでしょう。

強い部活であるほど顧問の自由度は増す

――生徒のなかには「強豪校でプレーしたい」「技術指導ができるのはこの先生だけ」「○○部はこの高校にしかない」といった理由から進学先を決める人も少なくないと思います。進学後に部活の顧問が独裁的な指導や体罰をしていると判明した場合、生徒には退部や転校をするという選択肢しかないのでしょうか。

内田:本当は体罰をした顧問の先生が辞めるべきですが、実際は子どもが諦めざるを得ないという現状があります。

特に部活動に力を入れる学校の場合は、「強ければ何をやっても許される」という風潮が蔓延して、強い部の顧問には校長ですら逆らえないというケースもあります。部活の大会で優勝すれば、顧問はトロフィーを持って帰って、校舎に垂れ幕が下ろされ、学校の評価も上がる。強豪校になればなるほど顧問の自由度が増しやすい側面があり、もし顧問が体罰をしていたとしても、学校側が注意できないことも考えられます。

――体罰をするような先生に当たった結果、競技を断念するなど子どもの人生が左右されてしまうのは残念でなりません。

内田:体罰をするような先生は、実質的には犯罪者なのだからハズレどころの話ではないですよね。学校は“治外法権”であると、僕は見ています。法律よりも「教育」という独特のルールが通用してしまう。

数年前から問題視されている巨大組み体操も、怪我人が出れば全国ニュースで取り上げられて批判されるに決まっているのに、それでもやっている学校がある。傍から見ていると異常ですよね。しかし現場では、「子どもたちの成長」や「感動」という言葉によってみんなが思考停止して、危険行為だということが見えなくなっているのです。

――体罰問題を解決する方法はあるのでしょうか。

内田:体罰を認めてしまう文化や意識を変えるには時間がかかります。そのため、現段階で考えられる対策は、先生たちの体罰に対する懲戒処分を厳しくすることです。また、学校内で起こる体罰や、子どもによる先生への暴力、子ども同士のいじめや暴力などでも、必要があれば警察に入ってもらい、法律を適用する。学校の治外法権を解体していくことが重要です。

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