保育士の処遇改善は始まったものの、まだ焼け石に水
こうして待機児童解消の受け皿としてのハコはどんどん作られたものの、肝心の保育士の供給がまったく追いついていない。
厚生労働省によると、保育士の2018年11月の有効求人倍率は3.20倍、全国で最も高い東京都では6.44倍。保育士の確保のため、園や人材会社などで取り合っているような状況だという。
国も保育士供給確保のため、重労働で薄給といわれてきた保育士の処遇改善策として取り組みを始めた。主なものを挙げると、
●保育士の給与を2019年度は約1%改善(月額約3000円程度)
●上記に加えて、技能・経験に応じて月額5000円から4万円の給与改善
●ブランクがあることで保育士としての職場復帰に不安のある人を対象に、職場復帰のための保育実技研修などを行う
●勤務環境の改善のため、ICT(情報通信技術)の活用による書類作成業務の省力化や保育士のための宿舎の借り上げを支援(上限月額8万2000円)
保育士資格を持ちながらも保育士をしていない「潜在保育士」と呼ばれる層にもアピールする狙いだ。しかし、これらの施策は当の保育士にとって到底、納得のいくようなものではない。その声をネットから拾ってみれば、一目瞭然だ。
「お給料が3000円アップしても消費税増税でトータルでは下がる」
「無償化で受け持ち人数が増えてさらに余裕がなくなる」
「今まで以上に休みが取れなくなる」
「保育の質を保つため政府は研修を強いてくるだろうが、ただでさえプライベートな時間がないのに24時間働けというのか」
この程度の処遇改善では焼け石の水、としか受け止められていないようだ。それより、利用者増によって今まで以上に負担が重くなることに戦々恐々としている。
保育士不足の理由①−−給与の安さ
どうしてそこまで保育士のなり手がないのか。また、辞める人が多いのか。
まずはよく知られた給与の安さがある。保育士の月間現金給与額は平均で月23万9300円と、全産業の平均と比べ10万円ほども低いのだ(平成30年賃金構造基本統計調査)。これに対しては前述のように、2019年4月より一律3000円アップ、技能・経験に応じて5000円から4万円アップの取り組みが始まったが、もっと大規模に全体の底上げが必要との声が多く上がっている。
また、2000年の規制緩和で営利企業の保育業への参入が認められたのだが、これらのなかで人件費をピンハネする、いわゆる「ブラック保育所」が急増していることも問題だ。
私立の認可保育所の保育料は、税金を原資とする国・自治体からの委託費、および保護者が払う保育料から成り立っている。この委託費はもともと、人件費、事業費、管理費とそれぞれの費用の使途が定められていたのが、もうひとつの規制緩和である「委託費の弾力運用」により、費用の流用が可能になった。
その悪用で、本来、保育士への給与に充てられるはずの、それも税金から出ているお金が、会社の利益のために回されるという本末転倒な現象が起きてしまっている。