ペットボトルでできる心肺蘇生のトレーニングを覚えて、「助ける力を持つ人」になる

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 もし、目の前で人が倒れたら、あなたはどうするだろうか。心肺蘇生の訓練を受けていなければ、救急車を呼んで救急隊の到着を待つしかない。実は、心停止の7割は住宅で起きている。家族が突然倒れたとき、心臓マッサージなどの心肺蘇生ができれば、救命の可能性を高められるかもしれない。

 しかし心肺蘇生の訓練を受けたくても、その機会は限られている。たとえば、消防署や日本赤十字社で行われている救急講習は、1カ月から2カ月前に予約しないと定員に達してしまう。しかも平日に行われる講習が多いので、参加するには敷居が高い。

心肺蘇生の訓練をもっと簡単にできる取り組み

 今、心肺蘇生のトレーニングを身近にするための、一般社団法人ファストエイドの取り組みが注目されている。それは、ペットボトルを使った心肺蘇生の訓練だ。

 ファストエイドでは、助ける力を持つ人を一人でも増やすため、そして、どこでも迅速な緊急対応ができる社会を目指して、簡易キットによる世界初の心肺蘇生のトレーニングツールを開発した。

 この簡易キットは、人型が描かれた専用の紙製の訓練シートにペットボトルをセットするだけで、心肺蘇生の訓練ができる。通常使われる心肺蘇生の訓練用人形を押す代わりに、ペットボトルを押す仕組みだ。

 ファストエイドでは、そのペットボトルを心肺蘇生のCPRトレーニングに使える「CPRトレーニングボトル」と呼んでいる。CPRとは心臓マッサージによる心肺蘇生法のことだ。現在、訓練での使用に適しているペットボトルとして確認されているのは、サントリー天然水の550mlのボトルだ。

 訓練用人形を押す時にかかる荷重と変形量などを、詳細に測定し検証した結果、サントリーの天然水のペットボトルが非常によく似た変形特性を持つことがわかり、「CPRトレーニングボトル」として採用された。詳細な実証データは、ファストエイドのホームページ上で公開されている。

 ファストエイドでは、主に企業の従業員を対象に「CPRトレーニングボトル」を使った救急講習会を開催している。一般に行われる訓練用人形を使った講習会では、訓練用人形が高価なため全員分用意できず、多くの場合、ひとつの訓練用人形を交代で使うため、講習時間も長くかかる。しかし、「CPRトレーニングボトル」を使った講習会なら、講習会に参加している全員分のキットも用意しやすく、全員で同時に練習できるので、講習時間も短くて済む。

 また、この訓練用キットには、自宅に持ち帰って家族にCPRのやり方を伝えられるという利点もある。「CPRトレーニングボトル」を使った訓練法は、YouTube動画で公開されている。

 この動画を見れば、音楽に合わせてペットボトルを押すだけで、1分間に100回から120回行う心臓マッサージのリズムを覚えられる。家族に一人、心肺蘇生を学んだ人がいれば、このキットを使って動画を見ながら、家族全員で練習できるのだ。心停止の7割が住宅で起きている現状で、家族全員が心肺蘇生を学んでいれば、家族の命を救う確率は格段に上がる。

 ファストエイドには、この訓練用キットを購入したいと多くの問い合わせがあった。そこで、改良した訓練用シートを量産する資金調達のため、クラウドファンディングを実施した。2019年5月にプロジェクトは成立し、今後、継続的にキットを提供できる体制が作られていく予定だ。

より進化した「SUPERSONIC CPR」も登場

 ファストエイドは、「CPRトレーニングボトル」を使った訓練のためのキット装置「SUPERSONIC CPR」を、新しく開発した。

 「SUPERSONIC CPR」はボード型の装置で、今までの人型が描かれた専用の紙製の訓練シートの代わりになるものだ。ボードの中に荷重センサーが入っていて、「CPRトレーニングボトル」を置き、垂直に荷重をかけ、あとは光と音楽がリードするシステムだ。

 ファストエイドでは、この「SUPERSONIC CPR」を体験できるイベントを、2019年5月18日に池袋のnestマルシェのファストエイドブースで行った。豊島区議会議員の池田裕一氏や隣でブースを出していた東京消防庁の隊員も参加し、総勢50名以上がトレーニングを体験した。光で圧のかけ具合がわかるので、自分が正しく心肺蘇生しているのかわかりやすい、音楽に合わせてトレーニングできるので楽しいと好評だったという。

 ファストエイドでは、今後も「SUPERSONIC CPR」を体験できる機会を設ける予定だ。

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