社会

「同意なき性交は犯罪ではない」現実を知り、動き出した世論

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性被害を明るみに出し、立証するのは難しい

 とはいえ、本件の被害者の女性のように、18歳未満の未成年の性被害は多くの場合、大人により隠匿されていたり、子どもがうまく説明できなかったり、家族をかばう気持ちとの板挟みになったりで、明るみに出ることが難しい。本件でも、被害者は実の父親による性暴力を19歳になるまで訴えることができなかった。

 報道によると、彼女は6人家族。父母と3人の弟と一緒に住んでいた。小学校の頃から父親に暴行されていたが、母親はそんな父親をほとんど止めず、時には加勢するほどだったので、母親に助けを求めることはできなかったという。

 中学2年生になった頃、父親にレイプされるようになった。反撃するたびに殴られ、蹴られるなどの暴行を受けたという。そんな地獄のなかでも進学への強い意思を持ち、専門学校に進んだのに、言いなりにならないと学費を出さないと金銭的にも脅された。警察に訴えることも考えるが、父が逮捕され、弟らが犯罪者の息子になってしまい生活できなくなることを心配して、踏みとどまっている。

 傷つけられ、追い詰められ、板挟みになった彼女の苦悩はいかばかりであったろう。

 父親は娘が中学生の時からレイプを続けているわけだが、起訴された罪状は、直近の性的暴行に関する準強制性交罪。2017年の8月と9月に、当時19歳だった娘に自分の勤め先やホテルで性的暴行をした罪に問われた。

 先にも述べたが、準強制性交罪が成立するための要件は以下の2つ。

① 同意のない性交

② 心神喪失または抗拒不能(身体的または心理的に抵抗することが著しく困難な状態。たとえば、手足を縛られている、酩酊している等)。

 このうち、裁判所は①の同意がなかったことは認めているものの、②の抵抗が著しく困難な状態ではなかったとして、父親に無罪判決をくだしている。

 「事件の前に大きなアザができるほどの暴行はあったものの、性交を受け入れざるを得ないほどの恐怖を感じさせるものではなかった」という判断だ。

「抵抗できない」からといって、「同意」しているわけではない

 事件の前に大きなアザができるほどの暴行があれば、恐怖から抵抗できなくなっても不思議ではないだろう。

 また、朝日新聞の記事によると、公判では「女性が心理的に抵抗できない状態にあった」という精神科医の鑑定も提出されたという。判決はこれを採用しつつも、「法律上の抗拒不能とは異なる」と判断した。

 「“同意”と“理解”が混同して使われているのではないか」と疑問を呈するのは、明星大学准教授の藤井泰氏。

 「虐待を受けている子どもはその状況を“理解”はしても、受け入れて“同意”しているわけではない。同意がなかったと認定しているのであれば、抵抗できないことを理解しているということを元に判断するべきではないか」とAbemaNewsで指摘している。

 実父から13歳から20歳にかけて性暴力を受けた性被害サバイバーで、冒頭でも紹介した性暴力被害当事者団体、スプリング理事の山本潤さんは、「抵抗などできない」と訴える。

 性被害にあった人が恐怖から凍りついてしまい、抵抗できない心理メカニズムを、山本さんの著書『13歳、「私」をなくした私』(朝日新聞出版)から以下、引用する。

<トラウマになるような「死ぬかもしれない」と思わされる出来事に遭遇すると、人間の身体は生き残ることに全てを集中させる。脳のスイッチが切り替わり、人間がサバンナにいたころから用いてきた生き残り戦略が優先されるのだ。

 そして、逃げることも戦うこともできないとき、もうひとつの自衛策としてフリーズ(凍りつき)が起こる。医学生物物理学博士で心理学博士であるピーター・リヴァイン氏は、フリーズ(凍りつき)も逃走や戦闘と同じように、生き残るためには普遍的で基本的なものだと述べている。>

 本件の19歳の被害者の女性も子どもの頃から父親に暴力をふるわれ、中2のときからレイプされ続けた。怖さから凍りつき、抵抗できなかったであろうことは容易に想像がつく。しかも、それを裏づける精神鑑定書も裁判所に提出されていたという。それでも「抵抗が著しく困難だったとは言えない」となった。

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