トランプがイギリスを訪れ、盛大なアンチ・トランプ・デモを繰り広げられていた間にも、アメリカ国内ではロシア疑惑に基づく「トランプ弾劾」が語り続けられ、同時に2020大統領選も進行していた。
民主党からは総勢24名(*)もの候補者が出、しのぎを削っている。前回のリポート(5/2付)にも書いたように、候補者にとって最初の難関は6月26〜27日に行われる今季初のディベート出場だ。
*実質の選挙活動をおこなっていない1名を除いて23名とするメディアもある
2020大統領選:女性への「お触り」をするバイデン元副大統領が一番人気
元副大統領バイデンの「性的ではない」女性への「お触り」 4月25日、オバマ政権時の副大統領だったジョー・バイデンが2020大統領選への立候補を正式に表明…
ディベート出場には支持率と寄付者数の条件がつけられており、どちらかをクリアした20名が壇上に立てる。逆に言えばディベートに出られない4名はその時点で実質的に大統領選脱落であり、各候補は必死だ。条件達成の締め切りは6月12日だが、10日の時点で以下が見込み報道されている。
・支持率と寄付者数の両方をクリア:13人
・支持率のみクリア:7人
・寄付者数のみクリア:0人
・条件クリア不可:4人

2020大統領選 民主党立候補者。支持率と寄付者数の両方で6月のディベート出場資格を得た13名
支持率と寄付者数の両方をクリアしている13人の顔ぶれが興味深い。これも前回にリポートしたように、その多くが人種民族、宗教、性別、性的指向など、なんらかのマイノリティだ。
もっとも、現時点での支持率トップは相変わらずジョー・バイデン(前副大統領)、2位は前回の大統領選でヒラリー・クリントンと競り合ったバーニー・サンダース(上院議員)で、共に70代後半の白人男性だ。
だが、エリザベス・ウォーレン(上院議員/白人/女性)とピート・プーティジェッジ(インディアナ州サウス・ベンド市長/白人/男性/同性婚者)が急激に追い上げており、アンドリュー・ヤン(起業家/アジア系/男性)も健闘している。
アイデンティティ・ポリティクス
アイデンティティ・ポリティクス(Identity politics)とは、人種民族、信仰、性別、経済レベルなど特定の属性に基づいて政治家を支持する政治形態を指す。
一般的に考えると、大統領も含めて政治家は人種や性別などに基づかず、政治家としての資質によって選ばれるべきだ。だが、アメリカは建国以来延々と白人男性(かつ異性愛者、キリスト教徒)による統治が続いてきた。「白人男性」も一つのアイデンティティ・カテゴリーではある。しかし、あらゆるアイデンティティの市民が存在する国で、なぜ特定のアイデンティティを持つ者のみが大統領たり得るのか。
また、大統領が扱う問題は多岐にわたる。中絶問題をなぜ男性のみが論じ、決定するのか。同性婚問題をなぜ異性愛者のみが論じるのか。移民問題をなぜ非移民のみが討議するのか(*)。もちろん、全ての女性が中絶問題に深い見識と理解があるわけではない。逆に中絶問題を深く学び、理解する男性も存在する。だが、男性のみで中絶問題を討議、決定するのは明らかに間違いだ。同様の事象が日本でも深刻な問題となっているのは周知だ。
この考えに基づき、オバマ前大統領は最高裁判事に意図的にマイノリティを指名した。両親が米領プエルトリコから本土に移住し、ニューヨーク・ブロンクスの低所得地区で生まれ育ったヒスパニック女性のソーニャ・ソトマイヨール判事だ。ソトマイヨール判事が法律家として抜きん出ているのは前提であり、かつ幾つものマイノリティとしての側面を併せ持っているのである。
*大統領と副大統領には米国生まれの「生まれつきの米国市民」のみが就けるが、カマラ・ハリスなど移民二世の候補者たちは両親の移民特有の苦労や生活体験を理解している
女性:エリザベス・ウォーレン

エリザベス・ウォーレン
狭い選挙区に大きなマイノリティ・コミュニティを含む市会議員などと異なり、大統領はアイデンティティ・ポリティクスだけでなれるわけではない。男女比こそ50/50だが、それ以外のマイノリティは人口比が極めて低く、マジョリティの票も得てこそ当選できる。ちなみに黒人の全米人口比は13%であり、バラク・オバマの当選が黒人票のみによって為されたものでないことを表している。
今回の立候補者たちもアイデンティティに関わらず、大統領としての政策を練っている。中でもエリザベス・ウォーレンは早い時期から多数の政策の詳細を公表していた。経済の専門家ゆえに、過重な負担が問題とされている学生ローンの支払い免除や公立大学の無償化も、単に訴えるだけでなく、財源案も含めた詳細を語っている。
公約を早い時期に打ち出すと、有権者からの反応を見た他の候補者の参考にされる可能性があるわけだが、それを気に掛けないウォーレンの実直で真摯な姿勢が今、高く評価されている。ちなみに前回の大統領選時からトランプ批判を続けてきたウォーレンは、不要な大統領特権を廃止する策も訴えている。
同性婚者:ピート・ブーティジェッジ

ピート・ブーティジェッジ
ピート市長の愛称で親しまれているピート・ブーティジェッジは全米規模では無名、国政経験なし、37歳と極端に若く、そしてオープンリー・ゲイ(ゲイであることを公表)の同性婚者と、大統領選では不利に思える材料が揃っていた。ところがいったんスピーチを始めると、緻密さ、どんな質問にも即答する回転の早さ、市長としての経験と成功、かつ沈着冷静さと人当たりの良さが誰にでも分かり、瞬く間に支持率を上げた。今では「オバマの再来」とまで呼ばれており、実際、オバマ大統領は引退直前にブーティジェッジを「民主党の未来を築く数人の政治家」の一人として挙げていた。
ただし、当初は政策の詳細をあえて発表せず、そこを批判されていた。だがディベートが迫った今、ブーティジェッジの選挙戦公式ウェブサイトには医療保険、教育、インフラ、司法に於ける人種問題、LGBTの権利、地球温暖化、移民、銃規制、テロ対策、大統領選に於ける選挙人制度の廃止など実に27項目もの政策が連ねられている。貿易についてはまだ触れられていないのは、対中国、対メキシコの関税問題でトランプが騒動を起こしている最中だけに慎重を期しているものと思われる。
ピート・ブートジェッジ 出馬表明ビデオ
I launched a presidential exploratory committee because it is a season for boldness and it is time to focus on the future. Are you ready to walk away from the politics of the past?
Join the team at https://t.co/Xlqn10brgH. pic.twitter.com/K6aeOeVrO7
— Pete Buttigieg (@PeteButtigieg) January 23, 2019
1 2