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性暴力被害に寄り添う「フラワーデモ」にトランスジェンダーは参加してはいけないのか

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トランス男子のフェミな日常/遠藤まめた

 今から10年ほど前、女性ばかり何十人も集まった部屋に、トランスジェンダー男性の私はゲイの友人と共に座っていた。性暴力被害者支援のNPOの一員として研修を受けようとしていたのである。冒頭に、私たちはわざわざ全体に向けて挨拶をしなくてはいけなかった。女性に見えない姿の自分たちが、加害者ではないことの説明なしに、その場にいることは難しかったからだ。

 数日間の研修をへて、私たちは現場で働くことになった。事務所に行き、留守電を再生すると、同じ男の声で「覚えていろよ」なんて録音が何通も入っていることが何度かあった。当時は男の声で電話がかかってきた瞬間、電話を切ってしまう性暴力被害のホットラインもあったと記憶している。今も同様なのかもしれない。いずれにせよ、その当時、男性は加害者で女性が被害者、という方式の当てはまらない人たちがいることを私たちはその他多数のフェミニストに知ってもらう必要があって、同時に、私たち自身も彼女たちのことを理解しなくてはならなかった。研修の最中、わかってもらえないフラストレーションと、女性への暴力に対する無力さとの板挟みになって、ゲイの友人がみんなの前で泣きながら語りはじめた瞬間は少しだけ何かが分かち合えた気がしたけれど、またすぐに異性愛中心主義的ないつものフレームワークに戻っていった。

 その頃、LGBTコミュニティの一部では「ウーマンズ・ウィークエンド」という女性たちの合宿形式のイベントが、トランスジェンダー女性を排除しようとしていることが話題になっていた。2008年のウーマンズ・ウィークエンドでは、参加者の条件として、トランスジェンダー女性の場合には「性別適合手術を受けていること」という新たな要件が加えられ、翌年にこの方針は撤回された。ウーマンズ・ウィークエンドはそれまでの10年間、イベントのオーガナイザーや分科会の主催者にもトランスジェンダー女性がたくさん加わり、尽力してきた歴史をもっていた。長年セクシュアルマイノリティ女性の団体「LOUD」の運営に携わってきた大江千束さんは「ショックで夜も眠れなかった。だれがどうやって体を見るのか、なぜそんなことを今更言い出すのか」と語り、当時のトークイベントは今でも映像に残っている

 もともとレズビアンによるバイセクシュアル女性への偏見など、さまざまコミュニティ内の軋轢を踏まえて、あえて女性の定義を緩やかにして運用してきたウーマンズ・ウィークエンドだった。ウーマンズ・ウィークエンドで出会い、その後結婚したトランスジェンダー女性とシス女性のレズビアン・カップルが何組もいることも、セクシュアル・マイノリティ女性のコミュニティの歴史である。

 これらを踏まえた上で、2019年の今を見てみると、どうだろう。今年の5月、国内最大の女性限定クラブイベント「GOLD FINGER」がシスジェンダー女性限定のポリシーを表明し、その後、方針撤回・謝罪する流れとなった。ツイッターでは昨年からずっとトランスジェンダー女性に対するハラスメントが繰り広げられていて、これは10年前よりもひどい状況だ。「おまえらと性暴力の加害者は区別がつかないんだよ」という暴言は、トランスジェンダー女性が性暴力被害に遭遇しやすく、相談したとしても警察や医療機関、相談支援機関から二次被害を受けやすいという事実をあまりに矮小化している。

 今週の火曜日は、各地では性暴力をなくそうとするフラワーデモが行われた。その日の夕方、女性のみにパンプスやヒールを強要するのをやめようと呼びかける「#KuToo」署名運動の国会議員会館内イベントを女優の石川優実さん、何十年とフェミニストをやっている先輩方と開催した帰り道に「今日このあとフラワーデモに行こうか」という流れになった。私は用事があったので永田町の改札で別れ、来月のデモには参加したいと思って、その旨をツイートした。昨今のツイッターのことだから、案の定すぐに「フラワーデモにトランスジェンダーは来るな」との名指しの非難が飛んできた。しかし、コミュニティの葛藤の歴史は長いのだ。この私だけでも、もう10年近くこのような攻防をやっているのだから、めげたりはしない。

 あの頃たくさんの人たちが集まった性暴力被害者支援の研修会で、みんなの前で挨拶しなくてはいけなかったのは、本当は不当だったのかもしれない。だけど、いつだって性差別や性暴力について考えようとそれぞれの人たちが姿を見せて語り出すことは、社会全体にはプラスに働くと思う。だから私たちは黙らない。

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