
「Getty Images」より
2005年(平成17年)から、主に刑事裁判を見つめ続け、傍聴ライターとして活動してきた高橋ユキが、これまで傍聴してきた刑事裁判を紹介していく。
今回振り返るのは「上申書殺人事件」。2000年7月から8月にかけ複数の人間を殺害した暴力団員の後藤良次の告白と上申書から、「水戸の先生」こと三上静男が共謀者として逮捕された。「大前田の殺し屋」と恐れられた後藤と、金の臭いに敏感な三上が出会い、人の道に外れた犯行を重ねた。
上申書殺人事件
<2008年傍聴@水戸地裁>
2013年公開の映画『凶悪』は、冒頭で「実際の事件を基にしたフィクションである」とことわりがある。この“実際の事件”とは、茨城県で発生した通称「上申書殺人事件」だ。映画は2007年に書籍化されベストセラーとなったノンフィクション『凶悪—ある死刑囚の告発—』(「新潮45」編集部/新潮社刊)が原作となっている。
映画では、ピエール瀧扮する死刑囚の須藤が拘置所面会室で記者(山田孝之)に対し「誰にも話していない3つの余罪がある」と告白することから物語がはじまる。須藤は3つの事件を記者に告白したのち、こう続けた。
「全ての事件の首謀者は自分が『先生』と呼んでいた男です。そいつがのうのうと娑婆で生きているのは……自分の話を記事にしてもらって『先生』を追いつめたい」
この『先生』とは、茨城県で建設資材会社を営む傍ら、不動産ブローカーとして暗躍していた木村孝雄(リリー・フランキー)。須藤の告発した3件の殺人は、いずれも木村主導のもと実行されていた。
記者はこれを取材し記事を雑誌に掲載。同時に須藤は上申書を提出し、新聞社と警察が動き始める……。
現実世界では、死刑囚・後藤良次の告白を受けたことに端を発し、2005年10月18日発売の『新潮45』にこの「上申書殺人事件」についての記事が掲載されると同時に、後藤が上申書を提出、警察が捜査に乗り出す。立件されたのは1件のみであったが、最終的に首謀者の『先生』、三上静男が逮捕されるに至った。
後藤と三上の実際の一審公判は『凶悪』上映の5年前である2008年、水戸地裁で開かれた。