上申書殺人事件~死刑囚の告発から法廷に出た「水戸の先生」

文=高橋ユキ
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肝臓を患う男性を、酒漬けにして殺した男たち

 後藤よりも先に水戸地裁で開かれた三上の公判では、後藤の舎弟で栗山さん監禁に関わった沢村勝利、浦田大、小野寺宣之らが証人出廷し、監禁や栗山さん死亡の経緯、死体遺棄の詳細を述べた。

 まず浦田や沢村は、栗山さんが預けられることになった理由を三上からこう聞いていたと証言した。

「三上先生が『肝臓を患って病み上がりのジーさんが来て、多額の保険金が入るんで、殺して、いただいてしまおう』と……」

 三上は、栗山さんを事務所に迎え入れ、小野寺らにこう紹介する。

「今日から一緒に生活するようになった栗山さんです」

 そうして計画通り、初日から連日、栗山さんへ酒を飲ませる日々が続いたという。

「それほど(体調の変化を)感じませんでしたが、手や顔がむくんだり、おしっこを漏らすようになって、オムツをしていました。あと、大便、我慢できなかったのか、トイレの横にはみだしたりしていました……」(浦田の証言)

 小野寺は、栗山さんが酒を強要される以外に受けていた虐待行為を語った。

小野寺「鳥小屋の中に閉じこめられて、後藤から水をかけられていました」
検察官「虐待というようなもの?」
小野寺「そうです」
検察官「他にも虐待を受けていましたか?」
小野寺「食べ物……いろんな調味料を使った、かなり辛いチャーハンとかを食べさせていました……」

 こうして酒と虐待で衰弱していった栗山さんは、死亡する直前、何かを感じ取ったのか「家に帰りたい」と懇願する。この時の様子を浦田がこう語った。

「『母ちゃんの顔が見たいから帰らせてくれ』とか、酔っぱらっちゃって、フラフラしてるけど、意志だけは固くて、必死に言ってました。あとは三上や後藤が『死んじまえ』みたいに言うと『死にたくない』と言っていました。2人は『借金どうすんだ』とか『家族どうすんだ』とか責め立てながら『これ飲んだら考えてやる』といって飲ませていました」

 栗山さんを責めながら酒を飲ませていた後藤は、さらにスタンガンを持ち出し、それを栗山さんに当てるなどの暴行も加え始める。最終的に、栗山さんはウオツカを飲まされたことで死亡するのだが、この“最後の酒”を飲ませたのが三上だった。浦田が続ける。

「三上が……酒の棚から出してきました。何種類かあったんですが、『こんなのあるよ、90何度のウオツカだ』と言いながら……。三上は、栗山さんの体、首のところに手を入れ、上体を持ち上げ、そのまま瓶を栗山さんの口に入れ、酒を飲ませました」

 殺害するだけでは終わらない。一味は事件化しないよう工夫を凝らした。

「栗山さんを裸にして、浴槽に水を張って、その中に氷を入れて、栗山さんの体を冷やしました。後藤の指示でやりました。私と三上でつけました。水風呂は、死亡推定時刻を遅らせるためだと後藤から聞きました。そのあと後藤は『胃にウオツカがあったらまずい』と言って、ホースを口に突っ込んで、胃を洗っていました」

 その後、栗山さんに服を着せて、行き倒れにみせかけるよう、山の中に死体を遺棄した。実際、この方法で長年、彼らの悪行は後藤が告白するまで事件化していなかったのである。

 「水戸の先生」三上静男は、実行犯らが語る内容から想像される冷徹なビジュアルに反して、赤ら顔の高齢者で、服装もポロシャツにスラックスと、田舎のおじさんそのもの。法廷では傍聴席を時折見回し、目があうと少し微笑んでくる余裕を見せた。そうして、時に笑い、時に泣きながら、感情を込めて力一杯、自分の関与を否定し続けるのだった。

「96度のウオツカを飲ませたり、絶対にないです、フフッ」
「暴力は私、好きじゃないんですぅ!」
「水をかけたのは親切心です! 栗山さん、下痢かなんかで便をもらしたんです。みんな笑ってましたが、わたしはかわいそうだと。表に水道があるから、それできれいに洗ってあげて、お尻を拭いた記憶があります。いじめじゃありません!」
「(泣きながら)自分の欠点かもしれませんが、私は可哀想な人は見てられません! 困った人間を見ていられない性格、これはしょうがありませんっ!!」

 三上を法廷に引きずり出した張本人である後藤については、東京高裁で開かれた控訴審でその姿を間近に見たが、映画でピエール瀧が見せたような狂気も、凶暴さの片鱗もうかがえない、飄々とした雰囲気を醸し出していた。

 すでに別件で死刑判決を受けていた後藤は控訴審当時、確定死刑囚となっていた。そのため、刑務官の数が異様に多い法廷で、こう反省を口にした。

「月命日、手をあわせて冥福祈ってます……今後は冥福を祈り、罪を償っていきたいです。三上自身は三上自身が償わなきゃですけど、私は私なりに、自分にできる範囲の反省をしていきたい」

 この上申書殺人で、三上は2010年に無期懲役(求刑・同)が、後藤は2012年に懲役20年(求刑・無期懲役)が確定している。後藤が告白した3件のうち、あと2件も立件されていれば、三上は無期懲役以上の判決を受けた可能性が高い。書籍『凶悪』によれば、ほかにも三上の周辺では不審な死を遂げているものが複数いるという。

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