「仕事辞めたい」理由の1位に求人詐欺 就活で騙されたと気づいたら

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「Getty Images」より

 せっかく入社した会社だから、すぐに辞めたいなんて言えない……6月はそんな悩みを抱える新入社員が増えてくる時期だ。離職中もしくは退職を検討中の2019年卒新入社員を対象に実施した、退職理由についての調査結果によれば、入社前に提示された条件と入社後の働き方が違うことが、多くの新入社員を戸惑わせている。

 主に第二新卒・既卒・フリーターの就活・転職サポートに特化したサービスを届ける株式会社UZUZの調査によると、退職理由の1位は「聞いていた条件(給与やお休みなど)が違う」(32.39%)。次いで「人や社風が合わない」(27.27%)、「残業が多い」(10.80%)だったという。

 あらかじめ提示されていた労働条件と実際の労働条件が乖離しているケースは“求人詐欺”と呼ぶことができる。あらゆる労働問題の解決に取り組んでいるNPO法人POSSE代表で、求人詐欺の闇に切り込んだ『求人詐欺』(幻冬舎)の著者である今野晴貴氏に、求人詐欺の現状や対策などを伺った。

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今野晴貴
NPO法人「POSSE」代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。年間3000件余りの労働・生活相談に関わる。また、相談事例から日本の労働問題について調査・研究、政策提言を行っている。著書に『求人詐欺』(幻冬舎)、『ブラック企業』(文春新書)、『生活保護』(ちくま新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)など多数。

多い相談は給与の水増しや残業問題

 今野氏のもとには日々多数の労働問題に関する相談が寄せられる。なかでも求人詐欺は、人手不足が顕著な業界で横行しがちだという。目立って多いのは、給与の水増しだ。

今野氏「サービス業や介護業、保育業といった人手不足に陥っている業界では、見せかけを良くした嘘の条件を求人票に記載する企業が少なくありません。

 特に多いのが給与の水増しです。例えば、求人票には『月給25万円』と書かれているけど、実際は月40時間分の残業代が含まれているといったケース。このように、固定残業代を足した額を“基本給”として記載する企業は珍しくないのです。

 他にも、『業務手当』や『特別手当』と称した『〇〇手当』を基本給に加え、労働者が残業代が支給されていないことを指摘したら、『残業代は○○手当に含まれているから』と言い逃れるケースもよく見られます」

 給与以外のものでは、休日数に関するものも多いという。

今野氏「4月に働き方改革が施行されたこと、ワークライフバランスの見直しについて世間の関心が高まっていることなどから、年間休日数をチェックする求職者も増えています。そのトレンドに乗って、実際の労働時間や休暇を偽って、『うちの会社なら多く休めますよ』と謳う企業が増加している印象を受けています」

 以下は、具体的に今野氏のもとに寄せられた求人詐欺の事例だ。

今野氏「あるクリーニング店の話ですが、ハローワークの求人票には『昇給アリ』と書かれていたのに、そこで10年間働いている社員でさえ一度も昇給したことがなかった、という事例がありました。労働時間についても、『残業時間月4時間』と明示されていたにもかかわらず、実際は過労死ラインを越えた月80時間以上の長時間労働が常態化していました」

 さらに求人詐欺は、雇用形態にかかわらず横行していると警鐘を鳴らす。

今野氏「派遣会社が載せている求人票には『月収25万円可』と書かれていたのに、どれだけ頑張って働いても到底25万円を稼ぐことができない職場だった、という事例もあります。つい最近相談を受けた案件では、派遣先の労働条件には『寮費無料』と書かれていたのに、その寮費が給与から天引きされており、1カ月働いて給与明細を見た時に初めて気付くというケースがありました」

求人詐欺に気づいたら専門家に相談を

 怪しい求人票を見分け、求人詐欺を回避するには、どこに気を付ければいいのだろうか。

今野「給与に固定残業代が含まれているかどうかを最初に見るべきです。よくわからない手当てがごちゃごちゃ書いてある求人も怪しい。

 “裁量労働制”という言葉にも注意が必要です。求人票や面接時に『裁量労働制なので自由に働ける』とPRしておきながら、実際は過酷なノルマを課せられ、自由に働けるどころか毎日長時間労働に苦しんでいる人は多いです」

 2018年1月の職業安定法改正により、固定残業代や手当など労働条件の記載についてより細かく明示することが定められたが、しかし裁量労働制という働き方に起因するトラブルは今後増えていく、と今野氏は予想する。

今野氏「残業代を抑えて労働者を安く使い倒したい企業側は、採用選考時では裁量労働制ということは伏せておいて、入社した途端に『うちの会社は裁量労働制だから』と伝え、残業代を払わずに膨大な量の仕事を強いる。すでに私のもとにはそうした相談が寄せられ始めています」

 入社後に「これじゃ求人詐欺だ!」と気づいたら、我慢して働き続けることはない。「社会は厳しいもの」「すぐに辞めたら今後もろくな仕事に就けない」などと説教されても知ったことではないだろう。すぐに証拠を集め、専門家のサポートを仰ごう。

今野氏「一人で企業と交渉することは難しいので、労働組合や我々のような外部団体、もしくは日本労働弁護団やブラック企業被害対策弁護団に所属している弁護士などの専門家に相談してもらうことが必須と言えます。

 その上で、入社前の記録をちゃんと取っておくことが大事です。求人票や契約書などを手元に置いておく、面接時の会話を録音しておくなど、労働条件に関する情報は残しておくことが重要になります。もし記録が残っていなくても、悪い会社は叩けば埃が出るので、『証拠を取り損ねてしまった』と悲観的に考える必要はありません」

 ただし、不利な立場に置かれないよう慎重に行動することも必要だ。

今野氏「求人詐欺の被害に遭ったからといって、いきなり無断欠勤をしてしまうと不利になる恐れがあります。もし違和感を覚えたのなら、外部の機関に相談しつつ、ひとまず出勤は継続することをオススメします」

ハローワークと求人サイトを比較してみる

 そもそも、求人詐欺をはたらく企業への罰則はないのだろうか。

今野氏「2018年1月に職業安定法の改正が施行されて、ハローワークに掲載する場合は、『業務内容』や『契約期間』、『就業時間』などの明示が義務付けられました。ですので、様々な手当てや固定残業代が給与に含まれる場合、『○○手当を含む』『○○時間分の残業代を含む』と、裁量労働制を導入している場合では、『裁量労働制により、○○時間働いたものとみなす』と記載する必要があります。もしこういった記載を一切せずに求人詐欺が発覚した場合、行政による改善命令、勧告、企業名の公開などの対象になる可能性があります。

 ただし、民間企業が運営する求人サイトなどでは、これらを記載することは義務付けられていません。ですので、ハローワークと求人サイトに書かれている労働条件に違いがあるケースも結構あります。

 求人サイトだけを見るのではなく、同じ会社の求人票をハローワークでも探してみると、応募前にその会社が求人詐欺をしていないかどうか判断することが出来るかもしれません。また民間の求人サイトでも、利用者から『サイトに書かれていた労働条件と違った』といったクレームが何件も寄せられると、今後その企業の求人を自主的には載せないという取り組み自体はあります」

 現状では、求人詐欺被害に遭わないよう、就活における求職者側もリテラシーを向上させなければならない。

今野氏「詐欺をする会社はどんな環境下でも詐欺をします。抜け道を探して求人詐欺を働く会社が一定数あるのも現状です。もし求人詐欺の被害に遭ったら、外部の機関を頼って戦っていくことが、今できる適切な対処方法と言えます。とは言っても、求人詐欺に関する規制を強化すれば件数は減ると思うので、今後も行政が高い関心を持って取り組まなければいけない問題です」

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<おもな相談窓口>

NPO法人POSSE

総合サポートユニオン(求人詐欺や裁量労働制の問題に専門的に取り組んでいる労働組合)

日本労働組合総連合会

日本労働弁護団

ブラック企業被害対策弁護団

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