韓国系一家のシットコムが大ヒット~多様化社会のツボにハマった『Kim’s Convenience』

文=堂本かおる
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 アメリカの映画やドラマにアジア系が登場する作品が増えている。劇中に多様性を持たせるための「主人公の親友」役、もしくは秀才、頭脳明晰というアジア系のステレオタイプによる警察ドラマでの司法精神医学者や科学分析官などの役ではなく、またはアジアを舞台にアジア人をどこかミステリアスに描くものでもなく、アメリカを舞台とした作品での「主役」だ。

 以下はアメリカで生まれ育った韓国系二世や中国系二世を主人公とした映画やシットコムだ。特に『フアン家のアメリカ開拓記 Fresh off the Boat』は台湾からの移民の両親と、アメリカ生まれでヒップホップ・ファンの息子を主人公とし、カルチャー・ギャップをおもしろ可笑しく描いて大ヒットしたドラマだ。

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韓国系一家のシットコムが大ヒット~多様化社会のツボにハマった『Kim&8217;s Convenience』の画像2 ウェジー 2019.05.23

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韓国系一家のシットコムが大ヒット~多様化社会のツボにハマった『Kim&8217;s Convenience』の画像2 ウェジー 2018.08.30

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韓国系一家のシットコムが大ヒット~多様化社会のツボにハマった『Kim&8217;s Convenience』の画像2 ウェジー 2017.11.30

 『フアン家のアメリカ開拓記』で母親を演じているコンスタンス・ウーは上記『クレイジー・リッチ!』で堂々主役を張り、25年振りのオール・アジア系キャストのハリウッド映画として大ヒットさせた。

 同じく『フアン家~』で父親役のランドール・パークは、ネットフリックスの新作ロマコメ映画『いつかはマイベイビー Always Be My Maybe』で人気コメディアン/俳優のアリ・ウォンとタッグを組み、これも高評価を得ている(ゲストのキアヌ・リーヴスの演技がまた笑える)。

 いずれもアジア系アメリカ人のメンタリティ、アジア系コミュニティのあり方を描写し、そこにスパイスとしてアジア系のステレオタイプも絶妙に組み込んである。結果、アジア系は「あるある!」と爆笑し、非アジア系も肩肘張らずに観て、気楽に笑え、かつアジア系のリアリティを学べる作品となっている。

セクシーなアジア系男性、ついに登場

 台湾系一家を主人公とした『フアン家のアメリカ開拓記』はアメリカで2015年に放映開始され、瞬く間に大ヒットとなった。翌2016年には、カナダでは韓国系一家が主人公のシットコム『Kim’s Convenience』(キムさんのコンビニ)が始まっている。これも大ヒットし、現在はアメリカのネットフリックスでも配信されている(2019年6月19日時点、日本では未配信)。

 舞台はカナダのトロント。韓国からの移民であるキム夫妻はコンビニを経営している。家族経営で年中無休だ。ミスター・キムことお父さんは韓国人気質全開。ミセス・キムことお母さんも同様だが、頑固な夫と周囲との緩和剤役をニコニコしながら努めている。

 20代半ばの長男ジャンは10代で少年院に入り、父親とは断絶。更生した今も実家に寄り付かない。妹のジャネットは芸大で写真を専攻しつつ、家業のコンビニを手伝っている。お母さんとジャネットはこっそりジャンと会い続けているが、お父さんはそれを知らない。

 シットコムでありながら、ややシリアスなこの基本設定に、アジア系への反ステレオタイプと、あえてのステレオタイプが絶妙のバランスで同居している。まず、アジア系の移民の親は子供の教育に非常に熱心で、お母さんもジャンには「医者か弁護士」になって欲しかったと言う。先に挙げた映画『The Sun is Also a Star』の韓国移民の両親と全く同じだ。

 だが、反抗的なジャンはつまらない犯罪を繰り返し、少年院に入れられてしまう。これが理由で、韓国系キリスト教会に熱心に通うお母さんは常連信徒女性たちとの世間話で肩身の狭い思いをさせられている。それでも息子を愛するお母さんは、夫に内緒で美味しい韓国料理をせっせと作ってはタッパに詰め、ジャンのアパートに届けている。

 子供に実利的な職業に就いてほしいと願うのはお父さんも同じだ。娘のジャネットが写真を専攻しているのは全く理解できないが、仕方なく学資を出している。その代わり、ジャネットにコンビニを継いで欲しいと願っているのだ。写真家を目指すジャネットは当然、「ありえない!」と叫ぶ。

 アジア系へのアンチ・ステレオタイプの最たる部分は、ジャンがハンサムで体格もよく、セクシーなこと。自宅でくつろぐシーンでは半裸姿も披露し、上司である白人女性シャノンがジャンに夢中という設定だ。欧米でのアジア系男性への「冴えない」「モテない」といったステレオタイプを見事に覆したことになる。

 ちなみに上記『クレイジー・リッチ!』と『The Sun is Also a Star』で主役女性の相手役を務めた男優は共にアジア系と白人のミックスだった。『クレイジー・リッチ!』公開時に「アジア系にはハンサムでセクシーな役はさせないのか」と、キャスティングを疑問視する声が出ていた。

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