日本人の給料はなぜ下がり続けるのか? デフレマインドから脱却できない企業

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「Getty Images」より

 安倍政権は、2012年12月から2017年9月まで続いた景気拡大局面が、1965年から4年以上続いた「いざなぎ景気」を(長さで1カ月間)上回ったと主張した。

 一方で、会社員の平均収入はバブル崩壊後2割ほども下がっているという。どうやら安倍政権にとっては、会社員の給料が下がったことは景気には関係ないらしい。いや、そうなると「景気が良い」とはどのような定義で使われている言葉なのか。

 しかもOECD諸国の給与がこの20年間軒並み上がっているのに対し、日本だけが下がっている。わかりやすい資料として、全労連がOECD.Statから作成した『実質賃金指数の推移の国際比較』のグラフがある。これを見ると1997年の実質賃金を100とした場合、2016年の実質賃金はスウェーデン138.4、オーストラリア131.8、フランス126.4、イギリス125.3、デンマーク123.4、ドイツ116.3、アメリカ115.3と、軒並み上昇している。

 しかし日本だけは89.7と減少しているのだ。いったい、これでも景気が良いと言い張るのだろうか。

官民そろって雇用を犠牲にした日本

 日本人の賃金が下がった原因はいくつか考えられるが、そのひとつはバブル後に日本の企業が国際競争力をつけなければならないとして、人件費に低下圧力を加えるべく雇用の流動性を高めたことだ。つまり、企業の国際的な価格競争を高めるために雇用を犠牲にしたといえる。

 バブル崩壊後の1995年5月、日本経団連は『新時代の「日本的経営」─挑戦すべき方向とその具体策─』を発表した。経済学者の高橋由明氏によれば、この提言では従業員を管理職・総合職・技術部門の基幹職を担当する「長期蓄積能力活用型」と、企画・営業・研究開発部門などで専門職を担う「高度専門能力活用型」、そして有期雇用契約で時間給か職務給で支払われる「雇用柔軟型」の3つの型に分けられる。そして、最初の「長期蓄積能力活用型」以外は日本の伝統的雇用形態だった終身雇用・退職金の対象から外す意向を表明したものだという。

 高橋氏は、これをきっかけとして非正規従業員が増大し、受け取り賃金が下がって格差社会が生まれた指摘している(『商学論纂(中央大学)第55巻第5・6号(2014年3月)』)。

 政府はこうした民間の動きを抑止するどころか、1999年の労働派遣法の改正で後押しした。一部の業種を除いて全面的に派遣労働を可能にし、2006年にはそれまで除外されていた製造業も解禁した。このように官民が同調して非正規雇用を増やした結果、従業員の賃金に下降圧力が加わり続けることになる。

低賃金でも頑張らざるを得ない日本人

 もうひとつ、日本独自の雇用に対する姿勢が賃金の下降圧力を加えている。それは、労働者自身が解雇よりも低賃金による雇用継続を選んだということだ。欧米(特にアメリカ)では、景気が悪化すれば企業は存続のためにすぐさま人員整理を行う。労働組合でさえ、それが合理的であると考えれば解雇もやむなしとし、受け入れる。

 ところがバブル崩壊後に景気後退した日本では、労使の妥協案として、解雇を避けるために賃金を下げることで人件費を調整することを選んだ。産業別ではなく企業ごとに設立されている日本の労働組合は、組合員の雇用を守るために経営陣の要望を飲むという体質があるのだ。

 このように会社にしがみつかざるを得ない日本人の特性について、元国税調査官の作家・大村大次郎氏が分析しているところを要約すると以下のようになる。

 “欧米は社員を簡単に解雇するイメージがあるが、実は産業革命以来200年以上雇用問題と向き合ってきた歴史の結果、日本よりも労働環境は進んでいる”という。

 日本がこの点で遅れていることは、有給休暇を取得することが難しかったり、サービス残業があったりすることからもわかる。このようなことは欧米では考えられない。たとえばドイツでは大企業の監査役員の半数は労働者代表であることが法的に定められている。

 米国の自動車業界には、人員削減時には雇用年数が浅い従業員から削減しなければならないレイオフ先任制度がある。しかも経営状態が回復すれば、解雇された従業員を雇用年数が長い順に復帰させることになっている。さらに、公的な失業保険の支給期限を過ぎても賃金の100%が支給される失業補償制度まであるというのだ。

 つまり、これほどのバックアップ体制がある上で解雇しているのである。それに比べて日本の場合、解雇は単なる「社員の切り捨て」になっているという。(MAG2NEWS:2019/01/07『先進国で日本のサラリーマンの給料だけが下がり続ける2つの理由』

 その結果、日本人は低賃金に妥協してでも会社にしがみつかなければならない。

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