
病いと子供と私
若くして鬱病を発症し、20代のほぼすべてを家からほとんど出ずに暮らしていたという村田由美子さん(仮名)。生きる気力がゼロになった10年を経て、思いがけず叶った結婚と妊娠。だが、妊娠と同時に子宮頚癌が発覚した。
鬱病から回復し妊娠も、「いいお母さんになんてなれない」と葛藤した日々
中学時代の友人が以前SNSで、息子の1歳の誕生日にこんな投稿をしているのを見かけた。「妊娠と同時に、子宮頸癌が発覚。私の病気にふりまわされた一年…
妊娠判明直後の精密検査では「高度異形成か悪くても少しの浸潤」と言われていたものの、産後1カ月で受けた婦人科の検査で、由美子さんの子宮頸癌はステージIb1まで進行していると告げられた。子宮・卵巣・膣などの摘出手術日は7月6日に決まる。産後すぐの子宮全摘手術と、続く抗癌剤治療。由美子さんの子育てのスタートは、波乱に満ちたものだった。
子宮全摘手術も抗癌剤治療も鬱の10年に比べればなんでもなかった
「広範囲に及ぶ摘出手術が怖くなかったといえば嘘になりますが、それでも、癌の手術は受けるしかないわけで、我慢しさえすればいい。悩んでばかりだった鬱の時と違い、基本的に担当医の先生の判断に従って、手術を決めれば、あとは寝ているだけ。悩まなくていいからある意味、楽でした」
妊娠中、「鬱を治し切れていない自分が、母親になれるわけがない」と中絶を考えたこともあった由美子さんだが、生まれてきた息子は、ただただ愛おしかった。妊娠中に薬を絶ったこともあり、出産後は薬を一切必要としなくなり、精神科に通うこともなくなった。
手術日は産後4カ月の7月。まだ幼い赤ちゃんの世話は、由美子さんの母親が買って出てくれた。手術とリハビリで3週間に渡った入院期間中、母親は毎日息子を病室に連れてきてくれ、由美子さんはベッドで授乳ができた。
夫は由美子さんの実家に寝泊まりし、夜は息子をあやし、オムツを替えたりミルクをあげたりと甲斐甲斐しく面倒を見た。
「高齢になっている母にも申し訳なかったですし、夫も妻の実家で決して居心地が良かったわけではないと思うのに、文句もいわずに泊まってくれて。本当にありがたかったです。頑張っているのは周囲で」
とはいうものの、術後は膀胱にバルーンを入れての排尿訓練や、リンパを切除したことによる足のリンパ浮腫などつらい処置や後遺症もあった。さらに、術後の病理検査の結果、血液やリンパ液にも癌細胞が微細ながら入り込んでいる可能性があるとわかり、再発リスクも残っていた。