高校野球が投手を壊す 「投げすぎ問題」の解決策はあるか

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「Getty Images」より

 今月から北北海道、南北海道、沖縄県で高校野球の地方大会が開幕し、来月からは全国各地で甲子園を目指す高校球児の熱い戦いが繰り広げられる。高校球児の全力プレーを心待ちにしている人も多いと思うが、筆者は「“投球過多(投げすぎ)”に苦しむ高校球児がまた現れるのか…」と気が気ではない。

 昨年も秋田県立金足農業高等学校の吉田輝星投手(現北海道日本ハムファイターズ)が、地方大会初戦から甲子園大会決勝までの全11試合で計1517球も投げたことが話題になったが、おそらく今年も例外ではないだろう。

 投手の投げすぎ問題は長年議論され、様々なアイデアが検討されてはいるが、なかなか打開策にたどりつかない。新潟県高校野球連盟が今春の新潟県大会で、「投球数が100球に達した投手はそれ以降の回に登板できない」というルールの導入を検討していたものの、日本高校野球連盟に再考を求められ、最終的に見送られている。

 そんななか、この問題を解決に導くかもしれない“戦術”が、今年のプロ野球で見られるようになった。それは、“オープナー”と“ブルペンデー”だ。

・オープナー:中継ぎ投手もしくは抑え投手が先発で短いイニングを投げ、2番手以降で先発投手が登板するという戦術

・ブルペンデー:1回、2回の短いイニングを中継ぎ投手や抑え投手だけで繋ぐ戦術

 高校野球の投球過多の主な要因は、「エース投手にすべての試合に登板させ、完投させること」といえる。他の投手でイニングを稼ぐことができれば、先発投手の負担を軽減できるので、これらの戦術が普及すれば未来ある高校球児の身体を守ることができるかもしれない。

 高校野球でのオープナー・ブルペンデーの導入は可能だろうか。「甲子園という病」(新潮新書)の著者で高校野球の事情に詳しいスポーツライターの氏原英明氏に、話を伺った。

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氏原英明(うじはら・ひであき)
1977年 ブラジル・サンパウロ生まれ 奈良県出身。スポーツジャーナリスト。地方新聞社記者を経て2003年に独立。同年から夏の甲子園は17年連続で1大会を丸ごと取材。育成年代にスポットをあて、高校球児のその後も継続して追いかけるなど、アマチュアからプロ野球まで日本の野球界を幅広く取材する数少ないジャーナリスト。「Number」(文藝春秋)「slugger」(日本スポーツ企画出版)などの雑誌ほか、「Number Web」「ベースボールチャンネル 」(カンゼン)「News Picks」などのインターネットメディアに寄稿している。2013年に「指導力」(共著、日刊スポーツ出版社)、2018年に「甲子園という病」(新潮社)を上梓。2019年には「メジャーをかなえた雄星ノート」(文藝春秋)の企画・構成を手がけた。

「エースで負けたのなら仕方がない」という言い訳が欲しい

――オープナーやブルペンデーが、高校野球でも浸透する可能性はあると言えるでしょうか。

氏原氏「まず、オープナーやブルペンデーは投球過多から投手を守る素晴らしい戦術です。ただ、1つのチームにレベルの高い投手が何人も必要になるので、選手層という観点から見て、浸透することは難しいのが現状だと思います」

――高校野球では毎年、投手の投球過多が問題視されます。酷使すれば怪我の可能性が高まることはわかっているのに、なぜ投手酷使は無くならないのですか?

氏原氏「主な原因は、『エースで負けたら仕方がない』という意識にあると思います。監督や選手、応援している人達にも、この意識が共有され浸透していることが大きい。

 たとえばエースを代えて負けた時、『どうしてエースを代えたんだ!?』という意見が出てきます。また、控え投手を先発させて大量失点してしまった場合、『誰が責任を取るんだ!?』となる。

 高校野球は勝つことを正義とする“勝利至上主義”の風潮が非常に強く、監督は負けた時のバッシングを非常に恐れています。そのため、どれだけ疲れを見せていても、連投が続いても、エース以外の投手を投げさせることに消極的です」

――優秀な控え投手がいるチームも少なくありません。それでもエースにこだわるチームが多いことには首をかしげてしまいます。

氏原氏「去年の金足農業高校で言えばわかりやすいと思います。昨年の決勝戦で吉田投手がノックアウトされて、次に登板した打川選手は135キロ越えのストレートを投げるレベルの高い投手でした。私は『なぜこれだけの優秀な控え投手がいたのに、地方大会から吉田投手が常に投げていたのか』ということに疑問に感じたので、金足農業高校の関係者に話を聞きました。

 すると、『吉田投手じゃないと勝てないから吉田投手をずっと投げさせたわけではない。金足農業の戦い方として、吉田投手をマウンドに立たせることが最も戦い慣れた布陣なので、他の投手を投げさせられないんだ』と話してくれたんです。

 つまり、吉田投手以外の投手が公式戦で投げる機会が圧倒的に少なかったから、どうしても『吉田投手じゃなきゃダメだ』という空気感がチーム内で生まれてしまい、他の投手に投げさせることができなかったわけです。

 こうした理屈で、控え投手が充実しているにもかかわらず、公式戦ではエースにばかり投げさせるチームが多くなります。公式戦は“負けたら終わり”ですから」

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