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「合法の監獄」だった虐待家庭に育ち、「家族は素晴らしい」という神話の外で生きる女性と夫

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虐待サバイバーは夜を越えて

 日常的な暴力や性虐待で親に支配されて育った児童も、いずれ「おとな」になる。本連載では、元・被虐待児=サバイバーである筆者が、自身の体験やサバイバーたちへの取材を元に「児童虐待のその後」を内側からレポートする。

 取材に協力してくれた綾さんは、17歳まで家庭で実父の虐待を受けて育った。母はネグレクトで食事もなく、何か願望を口にすれば殴られた。父は綾さんが中学進学した頃から性的な行為を迫るようになり、抵抗すればやはり何度も殴られた。

 18歳になる2カ月前。殴られ腫れ上がった顔で登校したことで、担任教師が児童相談所に通報。ようやく暴力から逃れることが出来たが、トラウマは今も消えない。25歳のときに共通の趣味がきっかけで知り合った直樹さんと結婚し、10年。性行為はない。最終回となる今回は、夫婦の出会いや現在過ごす日常について話してもらった。

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この人とだったら“できる”かもしれない

 綾は、実家での暮らしを「合法の監獄」だったとふりかえる。
 晴れて“監獄”を脱出したものの、埋め込まれた地雷は消えることがなかった。

 街で父親に似た背格好の男を見かけると、身体がこわばる。公園や駅などで泣いている子どもは、昔の自分を思い出して惨めになる。妊婦も、母を思い出すから腹が立つ。嫌なものだらけ。外の世界は「家族」を想起させられるものであふれていた。

 母の日や父の日のショーウインドウのディスプレイ、CM、友人と交わされる会話などに、当然の前提として組み込まれている「家族は素晴らしい」という神話に疎外感を覚える。

 わたしみたいな人間だっているのに。

 葛藤を抱えたまま、年月だけは着々と進んでいく。

 綾19歳。はじめての恋人だった社会人の大輔が、性交をしても罪に問われない年齢だ。これまでかたくなに肉体的な接触さけてきた綾は、「こんなに好きな人なんだから、大丈夫かもしれない」と、わずかな希望を頼りに、セックスをしてみようと一大決心に踏み切る。

――すごい挑戦だったと思うのですが、実行の場所はどこにしたんですか。

「はい、都内のラブホテルですね」

――勇気を出したんですね。どの“段階”で辛くなってしまったのですか。

「うーん……。(ペニスを)入れるところで、ちょっとキツいかなって……」

――そこまでは、耐えたんですね。大好きな人とふれあうということで、少しでも気持ちいいとかうれしいとか、ポジティブな感情が湧いてくることはありましたか。

「そういうのは、あまりなくて。『ああ、こんなもんなんだな』って感じでしたね」

――入れるときに、嫌だと思ったってことは、そこで“止めて”もらったとか。

「彼は、わたしの過去や男の人に触ってほしくないのを知っていたから、ゆっくりゆっくり気づかって進めてくれました。でも、ここまでされると(挿入を拒まれるのは)男の人もキツいだろうなと思って……」

――じゃあ、我慢して……挿入させたんだ。

「そうですね」

――嫌だった、と伝えようと思ったことは?

「『嫌だ』とか『もうしたくない』ということは言えなかったです。
 (射精が)終わった後で、もうモヤモヤするしかなくて。具体的な言葉で表現することができないんですけど、『行為の最中に父を思い出した』ことで、彼への『罪悪感』も上がってくるみたいな。
 セックスを拒否したら、彼から『へりくつを言っている』とか「ウソつき」とか批判されるかもしれないと思ったら、怖かったんです。3年もつき合ったし優しい人なのに、全面的に認めてもらえるという“保障”がないと、思い切って本音が言えなかったんですよ。
 いつもだいたいそれで、“トラウマスイッチ”が入っちゃう。見ざる、言わざる、聞かざる、ですね」

 このほかにも綾には、父が肉体に触れてきた“あのとき”から、ずっと悩まされている夢がある。

 真っ暗な闇。その向こうから、父が全裸で追いかけてくる。

 綾は力の限り、走って、逃げる。

 走っても、走っても、出口はない。

 追いつかれたら、いったい何をされてしまうのだろう。

 体力が限界を迎える。絶望感で覆いつくされる。

「夜中に目が覚めて、また寝たら同じような夢を見ちゃうんじゃないかと思うと、眠れないんです。電気をつけて、布団の上でぼーっとしてる。毎日寝た気はしないですよ」

 この1年後。綾はカウンセリングに通い始めた。それは35歳になった今でも続いている。

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