米国を取るか中国を取るか、選択を迫られるグローバル企業

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「Getty Images」より

 6月17日のロイター報道に市場は反応しなかったのですが、一部専門家の間では大きなショックを持って受け止められました。これは中国との関係において「政経分離」、つまり政治は政治、経済は別との考えを放棄するというもの。今後は中国ビジネスを積極的に進める企業には大きな影響を及ぼす話で、場合によってはビジネスが成り立たなくなる可能性すらあるものです。具体的な内容は以下の通りです。

 自民党の甘利明議員(自民党選挙対策委員長)が会長を務める議員連盟が米国の意向を受け、日本でも「国家経済会議(米国のNEC)」を創設し、日米同盟強化の視点から米国の安全保障と歩調を合わせた体制作りが必要だと政府に進言しました。たとえば、米国が制裁を科す中国市場で日本企業がどう対応するのか、議論が必要としています。

 早い話が、これまでの政経分離の考えをやめ、安全保障の観点を最優先するものです。米国が中国のファーウェイなどに制裁を科し、取引を制限する中で、日本の企業もこうした制裁に抵触しないよう行動をチェックする必要があり、その体制を整備しようというものです。ファーウェイに限らず、米国が安保の網を広くかぶせる可能性があり、これに抵触したり違反したりすれば、日本企業も制裁対象になるからです。

トランプの安全保障重視

 こうした日本政府の動きの背後には、もちろん米国の意向が働いており、その米国ではトランプ政権がますます政策の中で安全保障の重要度を高めています。これが米中貿易摩擦、通商交渉にもよく表れています。米中間には年間4000億ドル(40兆円強)前後の巨大な貿易不均衡があり、トランプ政権はこれを中国の不当な利益、米国の損失と位置付けています。しかし、これは必ずしも本質的な問題ではありません。

 トランプ大統領にしてみれば、中国が国を挙げて他人の技術を盗用し、それをもとに中国経済を先進化し、モノづくりの頂点に立って、世界をリードするとの戦略に「待った」をかけたいわけです。不公正なやり方で経済覇権を握らせるわけにはいきません。そこで、表向きは通商交渉と言いながら、実は中国に対して「政府が国有企業に補助金を与え、中国進出企業に技術の移転を強要するやり方などを根本的にやめろ」、と要求しています。

 これに対し、国有企業を実態的に掌握している上海閥の江沢民派を中心に中国国内で強い反発が起き、習近平国家主席も簡単にこれを飲むことができません。交渉が進まない中で高率関税合戦となって、貿易戦争を引き起こしてしまいました。それでも江沢民派をコントロールしたい習近平主席はトランプ氏の要請を受け入れる用意があったようですが、江沢民派の説得は容易でなかったようです。

 そればかりか、トランプ大統領はさらに一歩進んで、米国の国家安全保障の観点から、通信機器大手のファーウェイやその関連企業70社に対して米国製品の使用を制限するなど、これらを排除する動きを強めました。これらも上海閥の企業群で、習近平主席は必ずしもコントロールできていません。そのため、米国の軍事機密などがファーウエイ経由で江沢民派や人民解放軍に漏れると、米国には大きな負担となります。

 こうした安全保障の観点も加わって米中交渉が進み、両者の合意へのハードルが上がっただけでなく、米国はその同盟国にも安全保障面で同調を求めてきました。これが自民党議連の対応、日本政府の姿勢変更につながったわけです。

違反企業に制裁発動

 米国の姿勢を甘く見るわけにはいきません。制裁企業と取引でもしようものなら、日本企業も制裁対象となる可能性があります。政府もファーウェイ関連の商品や企業を政府調達から外しています。違反した日本企業は日米両政府から制裁を受けるリスクがあります。

 米国の本気度は、北朝鮮への制裁に違反した疑いで、中国の大手国有銀行に取引記録の提出を求めたという最近の事例に表れました。銀行はこれに応じなかったため、ワシントンの連邦地裁から召喚状が来たと報じられました。その結果、当該銀行の株価が上海市場と香港市場で急落しました。これは、北朝鮮人と中国人が設立した香港のフロント企業が、中国の銀行を通じて北朝鮮の国営企業と1億数百万ドルの取引を行ったとして、中国の銀行に制裁違反の嫌疑がかけられたものです。

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