
等身大のフェミニズム/こはなみみこ
私が初めてヒール靴を履くよう強要されたのは、大学の就職支援センターでのことでした。
就活の解禁を間近に控え、「就活スタートセミナー」の名前で開かれたそのセミナーで配られたプリントには、「女子はタイトスカートに黒のパンプス。ヒールは3~7センチほど」という言葉がありました。その隣には黒のプレーンな甲の浅いパンプスのイラストが添えられてあり、さらに「ストラップのついている靴はカジュアルになるため控えましょう」とまで書いてありました。
それを見て私は途方に暮れました。というのも、私の靴のサイズは21.5センチと小さく、足の幅も狭いため、足に合うストラップのないヒールパンプスを見つけるのが困難だったからです。少々サイズが大きくてもせめて足の甲か足首を固定してくれるストラップが付いていれば靴が脱げてしまうことは防げるのですが、はっきりと「控えましょう」と言われてしまっているので、従わざるを得ませんでした。
結局、足に合わない少し大きなストラップのないヒールパンプスを購入し(それでもその靴はお店を何件も回ってやっと見つけた一足でした)、中敷きや靴擦れ防止パッドなどで工夫してなんとか履いていましたが、そもそも足に合っていないため、歩いている途中に脱げたり、痛みが出たりするのはしょっちゅうでした。排水溝の蓋にヒールがひっかかって靴が脱げた拍子に転んでしまったこともあります。排水溝の上にぽつんと取り残された片方の靴を眺めながら、上手くいかない就活のストレスも相まって情けなくて涙が出たのを覚えています。
そのとき、私は確かに「ヒールのパンプスを指定されていなければこんな目に遭わずにすんだのに」「なんで紐で縛るタイプの革靴じゃダメなんだ」と思ったはずなのに、いつの間にかそれを忘れ、職場で「暗黙の了解」として強制されるヒールのパンプスから、まるで法の目をかいくぐるようにしてこそこそと逃げ回ることばかり考えてきました。「そもそもパンプスを強制されること自体がおかしい」という考えに至ることなく。
さて、私が何の話をしているかというと、言わずもがな「#Kutoo」についてです。
念のため説明しておきますと、「#Kutoo」とは“職場で女性のみにパンプスやヒールを強制することが性差別やセクハラに当たる”として、“職場におけるパンプスやヒールの強制にNOを!という運動”のことです(http://lheurebleue.jp/kutoo/ より抜粋)。発起人はWEZZYでもフェミニズムに関する記事をいくつも執筆されている石川優実さん。
「#Kutoo」がSNS上で拡散されるにつれ「女性からハイヒールを履く自由を奪うつもりか」「男性のネクタイについても指摘しろ」などという「#Kutoo」の本質からずれた指摘(クソリプ)が増え、石川さんへのバッシングも日々激しさを増していて、はっきり言って目を背けたくなるほどの酷さです(それでも諦めずに冷静かつ論理的に声を上げ続けている石川さんには本当に頭が下がります)。
なぜ、「足が痛くならない靴を選ぶ自由を」というだけの主張がこんなにも理解されず、ましてや曲解されて、石川さんへのバッシングに繋がってしまうんだろう? そんな疑問を持っていた私ですが、最近はっとする場面がありました。