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資本主義が悪なのか?〜『ナニワ金融道』が真に批判したもの

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『ナニワ金融道』1巻(講談社)

 先進国で、資本主義に対する批判が強まっている。米国では、来年の米大統領選に向けて野党・民主党が6月下旬に開いた初の候補者討論会で、資本主義への激しい批判がエリザベス・ウォーレン上院議員ら各候補から飛び出した。

 欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット)問題に揺れる英国では、最大野党・労働党の党首で、筋金入りの社会主義者として知られるジェレミー・コービン氏が若い世代の支持を集め、首相の座をうかがう。

 資本主義悪玉論が強まる背景には、一部の富裕層とそれ以外の市民との間で経済的な格差が拡大していることなどがあるとされる。しかし、それは本当に資本主義のせいだろうか。

 この問題を考えるためには、資本主義の現実を生々しく描いた傑作マンガが役に立つ。1990年代に発表され、作者が世を去った今も読者の人気を集める、青木雄二『ナニワ金融道』(講談社)である。

現代日本経済のリアルを描いた名作

 舞台は大阪。中小企業や個人を相手とする金融業者「帝国金融」の営業マン、灰原達之を通して、借金によって人生を狂わされる人々の姿を描く。

 味わいのあるコテコテの大阪弁、素朴だけれど緻密な線で描かれた猥雑な街並み、カネに翻弄される人々のドラマなど、この作品には多くの魅力が詰まっている。とりわけ、物語を楽しみながら現代日本経済の仕組み、つまり資本主義に関するリアルな知識を学べることは、他の追随を許さないだろう。

 さて、作者の故・青木氏は『ナニワ金融道』のヒットを受け、経済・政治に関するエッセイも多く執筆している。その一貫した主張は、資本主義に対する厳しい批判だ。

 青木氏は、ドイツの経済学者カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスが説いた、貧乏な人がずっと貧乏なままでいて、金持ちがさらに金持ちになるのは、資本主義に根本的矛盾があるためだとする説に賛同する。具体的には、労働者は働いた分に見合う賃金をもらっていない。余分に働かされて、その余分を資本家が搾り取って、肥え太っているという(『ナニワ金融道 ゼニのカラクリがわかるマルクス経済学』)。

 このマルクスとエンゲルスの説は、青木氏に限らず、今でも一部の文化人や左翼政党などに支持されている。けれども本職のマンガで取り組んだ『ナニワ金融道』を読んでいくと、皮肉なことに、資本家が労働者を搾取するというマルクスらの説が、机上の空論にすぎないことがわかる。

 青木氏は「この資本主義の社会では、だれでもちょっとしたことでどん底に落とされる」とエッセイで述べる。たしかに『ナニワ金融道』では、なんらかの理由で人生のどん底に突き落とされる人物が次々と描かれる。ところがその中に、資本家による搾取が原因であるケースはひとつもない。

搾取するのは資本家たちではない

 たとえば、社会保険事務所に務める清水好美の場合。スナックのママに借金の連帯保証人になるよう色仕掛けで請われ承諾するが、ママが夜逃げしたため借金を肩代わりする羽目になる。清水を騙したのは資本家ではなくスナックのママだし、そもそも清水は会社員ではなく公務員だから、資本家に搾取されようがない。

 それから、商品先物取引にのめり込み、借金を抱えて自殺未遂にまで追い込まれる小学校教頭、三宮損得の場合。修学旅行代金の使い込みが発覚して辞任する際、朝礼台で児童らに向けて「ギンギンギラギラ夕日が沈む」と唱歌「夕日」を泣きながら歌うシーンは、滑稽と悲哀が入り交じった、この作品で最も感動的な場面のひとつだ。

 商品先物取引は資本主義を支える制度のひとつだから、教頭こそ資本主義の犠牲者のように見えるかもしれない。しかし、それは正しくない。もし商品先物取引が庶民を搾取するために仕組まれた制度なら、今ごろ国民の大半が取引を行い、損を抱えて苦しんでいるはずだ。ところが実際にはそんなことはない。商品先物に手を出すのはごく一部の人だけだし、その全員が損をしているわけでもない。

 もう一人、再選を賭けて立候補した現職市会議員、古井藤四郎の場合。「夜の勉強会」と称し、息のかかった市の幹部職員と高級クラブで頻繁に飲み食いし、その代金を市の経費、つまり税金で払っている。

 古井は選挙費用5000万円を借用するが、対立候補に僅差で敗れ、家族ともども夜逃げする。これまた資本家による労働者の搾取とは何の関係もない。そもそも古井は老舗呉服店のオーナーでもあり、彼自身が資本家なのだ。

 読んでいくうちに、作者の青木氏が腹を立てているのは、実は資本主義ではなく、別のものであることがわかってくる。

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