終身雇用さえなくせば、多くの問題は一気に解決する
つまり、広い意味では、長時間労働も強制転勤も、そしてパワハラも、終身雇用を維持するための措置として機能していたのが実態である。
先ほども説明したように、時代とともに市場環境は変化するので、企業が従業員に対して終身雇用を保証するのは、仕組みとしてそもそも無理がある。しかも近年は社会のIT化が急ピッチで進んでおり、市場環境が変化するスピードもはやい。
50年近くも同じメンバーが顔を合せて仕事をしている組織から、イノベーティブな発想が出てくる可能性ほぼゼロであり、こうした組織は確実に劣化が進む。近年、日本企業の競争力が低下したとの指摘は多いが、誤解を恐れずに言えば、終身雇用制度を頑なに維持してきたことがその原因のひとつである。
このような中、終身雇用制度を維持するための「装置」だった長時間残業と強制転勤、パワハラがすべて禁止されると、企業の経営には大きな影響が及ぶ。一部の企業は、業績が悪化し、最悪の場合には倒産という事態もあり得るだろう。そうならないにしても、業績の悪化をコスト削減で乗り切るしかなくなるので、際限のない賃金低下が進む可能性もある。
もしそうなった場合、日本企業の選択肢はふたつにひとつである。
ひとつめは、終身雇用を放棄し、諸外国と同様、パワハラも長時間労働もないかわりに、一生涯の雇用は保障しないというグローバルに見てフツーの会社になるというもの。もうひとつは、終身雇用を維持するかわりにひたすら賃金やコストを引き下げるというものである。
日本は人手不足が当分、続くことが予想されており、仕事そのものには困ることはない。転職の経験は知見を広げる効果があり、キャリア形成上もメリットが多い。筆者は終身雇用制度がなくなることは、労働者にとってむしろプラスだと考えるが、いかがだろうか。