なぜディズニー好きの彼女は腹を立ててしまったのか?
自己弁護をするようで心苦しいのですが、男性側からすれば、おそらくどれも悪気なくやってしまっていることだと思われます。暑いから冷房を強めただけだし、前戯やマッサージだって、基本的には相手に気持ちよくなって欲しいという思いでやっているはずです。弁当やカップ麺のニオイがつらかったと言っていた女性も、当時のことをこう振り返っています。
「男性社員たちは妊婦である私をとても気づかってくれました。体調に気をつけてねとか、何かあったら言ってねとか、優しい言葉をかけてくれ、そこはとてもありがたかったです。おそらく彼らは、具体的に何をどうすればいいのか、妊婦には何をしないほうがいいのか、よくわからなかったんだと思います。自分たちがデスクで食べてるお弁当やカップ麺のニオイが、まさかつわりの原因になっているとは想像すらしなかったんじゃないかな……。私も言えばよかったんですが、他にも整髪料や制汗スプレー、汗拭きシートなど、つわりの要因がたくさんあって、いちいち言うのも申し訳ないから我慢してしまいました」
現実問題として男性には生理痛がないし、つわりも経験することができないので、それらを身体感覚で理解することは不可能です。さらに言えば、義務教育などの場で詳しく習うわけでもないので、知識が不足しているのもある意味では無理のない話かもしれません。しかし、女性たちにある種の実害が生じ、ときに我々の姿が“無神経”に映っているとしたら……これは一度、立ち止まって考えてみる必要のある問題ではないかと思います。
ここで、女性の身体に関する無知や無理解の恐ろしさを痛感したエピソードをひとつ紹介します。これは桃山商事で「サプライズ・ディズニーの悲劇」として語り継がれている話なのですが、あるカップルの彼氏が、大のディズニー好きである恋人のため、誕生日にサプライズでディズニーランドへ連れて行くという企画を実行しました。彼女を驚かせるため、彼は休日の朝に車で迎えに行き、道中は目隠しをしてもらったまま現地へ。そしてディズニーランドに到着し、駐車場で目隠しを外すと──。なんと、彼女は大喜びするどころか、なぜか腹を立ててしまったそうです。彼氏もまさかそんな展開になるとは思っておらず、二人はそこからケンカに発展し、結局ディズニーランドには入園しないまま帰宅したというこのエピソード。一体、彼の行動のどこに問題があったのでしょうか。
どうでしょう、わかりますか? 私はこれを聞いたとき、何がいけなかったのかさっぱりわからず、彼に同情的な気持ちすら抱きました。しかし彼女の話を聞くと、見方がガラッと変わりました。まず大きかったのは服装で、行き先を知らなかった彼女は、誕生日のデートだからと思ってフェミニンな服とヒールが高めの靴に着替えて彼の車に乗ったそうです。
しかし、広い園内を歩きまわり、アトラクションでの並び時間も長くなるディズニーランドでは、ハイヒールよりも明らかにスニーカーのほうが向いています。また彼女としては、気温の変化や紫外線に対応できるような服装で臨みたかったという気持ちもあったようです。さらには、せっかく大好きなディズニーへ行くのだから、ルートやタイムスケジュール、ご飯をどこで食べるかなど、入念な準備もしておきたかったとか。そういう思いが複雑に絡まりあった結果だと思うと、腹を立てるのももっともだなと思い直しました。