
生き延びるためのマネー/川部紀子
ファイナンシャルプランナーで社会保険労務士の川部紀子です。2019年の参議院選挙が目前に迫っています。5月から6月にかけて「年金2000万円不足問題」が大騒動となったことを受け、各政党はマニフェスト(選挙公約)でも年金についての考え方を掲げています。
今回は、国会の議席数の多い7政党のマニフェストの中から「年金」分野を抜き出して簡単な解説をしていきたいと思います。
自由民主党
①低年金者に年間最大6万円の福祉給付金を支給。
→「低年金者」と「最大」がポイントです。月に換算して最大5000円ですので、生活できないほどの低年金の場合は、この福祉給付金によって暮らしていけるようになることは考えづらいものです。
②年金受給開始時期の選択肢の拡大。
→現在、年金の受け取りは原則65歳からですが、60歳から前倒しにして受け取る(繰上げ)ことも、70歳まで後ろ倒しにして受け取る(繰下げ)ことも可能です。
繰下げると、1カ月につき0.7%年金額が増えるので、最大42%(0.7%×12月×5年=42%)増えることになります。繰下げは早く亡くなると残念ですが、年金は一生涯受け取りなので、長生きするとかなりお得になることもあります。受給開始時期の選択肢を拡大するのは、60歳から70歳までから、もっと高齢になるまで繰下げることができるようにするということでしょう。
立憲民主党
①年金の最低保障機能を強化
→具体的な数字などは掲げていませんが、「最低保障」という言葉から低年金者への救済を手厚くすると考えられます。
国民民主党
①低所得の年金生活者に最低でも月5000円を加算。
→「低年金者」ではなく「低所得」の年金生活者ということですから、年金以外の所得がそれなりにある人は加算の対象にならないかもしれません。また、「最低でも」ということで、月5000円以上の加算もあり得ると受け取れます。
②短時間労働でも厚生年金に加入できるよう、適用拡大を進める。
→これは、パートの人も厚生年金保険料を払い将来の年金額を増やすことを促進するということです。いわゆる社会保険の「扶養の範囲」で、130万円の壁が106万円になりつつありますが、もっと年収が少ない人も厚生年金保険料を払う対象になるということです。
公明党
①低年金者を支援する給付金(最大月額5000円)を円滑に実施し、さらなる拡充を検討。
→「低年金者」支援は「最大」5000円とありますが、「さらなる拡充を検討」とのことですので、できれば今後さらに増やしたいということでしょう。
日本共産党
①マクロ経済スライド」を廃止し「減らない年金」を実現。
→「マクロ経済スライド」とは、年金保険料を納める現役世代の人数と、年金を受け取る人の平均余命の伸びに合わせて、年金額を自動的に調整して、世の中の物価や賃金の上昇よりも年金の伸びを低く抑える仕組みです。現在の日本ですと、今後は年金が抑えられることが大いに考えられます。既に、2004年の制度導入から2015年度、2019年度と2度発動されました。このマニフェストは、年金を物価や賃金よりも低く抑える、このような仕組みを廃止するという考え方です。
②高額所得者優遇の年金保険料の見直し。
→「年金保険料」ですので、現役時代に納める年金保険料についてです。現在の国民年金保険料は所得額にかかわらず保険料は一律になっています。また、厚生年金保険料は報酬に応じて違いますが上限があります。これらの保険料の仕組みを高額所得者優遇と指摘し、見直しをするということです。
日本維新の会
①自分で将来の年金を積み立てる「積立方式」に長期的に移行。
→年金制度は「積立方式」と「賦課方式」があり、日本では賦課方式を採用しています。賦課方式は別名「世代間扶養」といい、現役世代の納める保険料が、支給対象者に払われる年金となっています。少子高齢化が進むと、納める側は減っていきます。つまり年金が減少することになります。それなら、賦課方式をやめて、長期的に積立方式に移行していくことにしようということです。
②年金支給年齢の段階的引き上げ。
→現在原則65歳から受給開始の年金を、少しずつ開始年齢を上げていき後ろ倒しにしようという考え方です。
社会民主党
①基礎年金について「マクロ経済スライド」による年金の抑制を中止。
→「基礎年金」について先述の「マクロ経済スライド」を廃止と言っています。日本の年金は2階建てとなっており、全国民が対象の1階部分「基礎年金」と会社員や公務員が対象の「厚生年金」です。このうち、基礎年金に関しては物価や賃金よりも低く抑える仕組みを廃止するということです。
②年金支給年齢の引き上げに反対。
→現在の受給開始年齢は65歳ですが、それより後ろ倒しにするのは反対だという意味です。
まとめ
各政党の年金に関するマニフェストに違いはありますが、いずれにせよ年金の厳しい現状は読み取ることはできるのではないでしょうか。どの政党が政権を取ったとしても、年金財政が突如改善することにはならないことがわかります。政治の強い力に期待しつつも、国に頼るのではなく個々人が力を付けていく必要があるのです。
また、「公約」という字面は、「必ず実現される約束」とは少し違います。実際に議席数をもっとも多く勝ち取り、第一党になって政権を担当しても、法改正は国会で決まります。当然そこで否決されることもあるわけです。そういった意味では、マニフェストは政党の「強い思い」であることには違いありませんが、約束とは考えず、実現の可能性なども考える必要もあるのではないでしょうか。
いずれにせよ、2019年参議院選挙が近付いています。連載の特性から年金の分野で解説してきましたが、投票する上で他の分野についても各政党がどのような思いを掲げているのか、読んでみるのもいいかもしれません。