問題だらけの大学入試共通テスト・英語民間試験 制度不備が受験生を混乱に陥れる

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民間試験はそれぞれ測る英語力が異なり、成績の一律比較ができない

 共通テストで活用される英語民間試験は、生まれた国も背景も違えば、内容、目的、評価の仕方も異なる。このほど離脱を表明したTOEICは主にビジネス英語を取り扱うのに対し、TOEFLは北米の大学入試によく利用されるアカデミックな内容の英語だ。ケンブリッジ英検は英語圏における日常生活に必要な英語力、ベネッセが開発したGTECは高校生が実際の使用場面において必要とされる英語コミュニケーション力を測るものだ。

 受験生たちはこれらの民間試験を、来年4月から12月の間に2回まで受験できる。

 結果は共通テストに直接反映されるのではなく、「CEFR(セファール)」と呼ばれる、ヨーロッパ言語参照枠基準の6段階に当てはめて換算される仕組みだが、反対派の学者たちはこの換算法を「科学的裏づけが全くない」と指摘する。京都工芸繊維大の羽藤由美教授は「50メートル走と握力を測ってどちらが体力があるか見るようなもの」とたとえて、強く批判している。

受験生の居住地域や家庭の経済状況により、受験機会に格差がある

 英語民間試験への反対、懸念の最たるものが、受験生の居住地域や家庭の経済状況によって、受験機会が均等ではないことだ。

 民間試験の受験料は1回5800円〜2万5380円。平均すれば1回約1万7000円と、かなりの高額だ。IELTSを2回受験すれば、受験料だけで5万760円にもなってしまう。本番前に慣れるための練習受験もするなら、費用はさらにかさむ。

 また、試験会場の数も、実施の回数も、都市部に集中しているのが現状だ。地方や遠隔地に住む受験生の場合は、受験会場のある都市へ向かうための交通費、場合によっては宿泊費など、さらなる負担がかかることとなる。

 所得の低い家庭や、遠隔地に住んでいる受験生は、経済的・物理的理由から自分に最も合った民間試験を受けることを諦めなければならないかもしれず、圧倒的に不利だ。一方、都市部の富裕層の家庭であれば、本番受験の前に何度も練習受験を重ねることもできる。

 大学入試センターは全都道府県で複数回実施できるような会場の設置と、経済的負担を極力軽減できるような検定料の設定を実施団体に毎年度要請していく方針としている。だが、民間試験が始まる2020年4月を目前に、公平性の確保の問題はまだ道筋がついていない。

試験の運営は各民間試験団体に丸投げ

 試験が公正に行われるかどうかについても疑問が残る。

 試験の運営は各民間試験団体に丸投げされており,第三者が監視・監査する制度はないのだという。どのような資格・資質の採点者が、どのような体制で採点を行うのかは不透明だ。アジアなど海外の委託業者や学生のアルバイトに採点を行わせるような実施団体もあることが報じられている。

 入試制度に詳しい東京大学高大接続研究開発センターの南風原朝和前センター長は、「国の共通テストとして利用するならば、採点者の資質がわかるデータを提供してほしい。外国での採点などは質の確保や信頼性の観点で懸念がある。国は実態を確認し、対策を考える必要がある」と指摘している。

 また、受験対策本などで利益を得る試験団体があることに対して、利益相反だと疑問の声が上がっている。

 毎日新聞によると、GTECを実施するベネッセコーポレーションと、TOEFLiBTを実施するエデュケーショナル・テスティング・サービス(ETS)が参考書を出版することを明らかにしているが、公的な試験を作問する側がそれを商機に参考書を出版して、試験の公正性は保てるのだろうか。

 ちなみに、今までのセンター試験では、実施団体の大学入試センターは参考書を出版してはいない。

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